人の動きや呼吸を見守る非接触式の静電容量型フィルム状近接センサー医療機器ニュース

産業技術総合研究所は、非接触式の静電容量型フィルム状近接センサーを開発したと発表した。人の目に触れないところに設置して、使用者に精神的・肉体的な負担をかけることなく、人の動きや呼吸が検出できる。

» 2016年02月10日 08時00分 公開
[MONOist]

 産業技術総合研究所は2016年1月25日、非接触式の静電容量型フィルム状近接センサーを開発したと発表した。人の目に触れないところに設置して、使用者に精神的・肉体的な負担をかけることなく、人の動きや呼吸を検出できる。

 現在、介護は大きな社会的課題であり、ビッグデータを利用して介護を支援する「見守り産業」などが注目を集めている。データを取得するセンシング技術には、ウェアラブルセンサーなどの接触式センサーの他に、カメラや電波を用いる非接触センシング技術がある。しかし、同技術は死角が生まれやすく、センサー類を目に見える場所に設置する必要があるため、利用者の生活面・精神面に影響を与えるという問題があった。

 同研究所では、利用者の精神的負担を一層軽減すること、センサーを簡単に使用できることを目指し、壁・床・ベッドに貼るだけで簡単に利用でき、しかも裏側に設置することで目に触れることなく自然な状態で人の動きや呼吸を検出できる、静電容量型フィルム状近接センサーを開発した。

 同センサーは、フィルムの表面と裏面に電極が設置されたコンデンサー構造になっており、電極間に交流電圧をかけて用いる。おもて面と裏面の電極サイズが同じ場合は、発生する電気力線が電極間に閉じ込められるが、電極サイズが異なると周囲に電気力線が漏れる。この状態で人がセンサーに近づくと、電気力線の一部が人の方向に向くため電極間の静電容量が変化し、人の接近を検出する。

 電気力線が一般的な床材やベッドマットなどで遮蔽されない周波数(今回は200kHzを使用)の交流電圧をかけると、センサーが「物体の裏側に隠れている状態」でも、おもて側で人の接近を検出できる。さらに、フィルム状近接センサーを畳ベッドの裏側に貼り付け、その上に寝ている人の胸部の動きを選択的に捉えることで、呼吸を的確に検出することにも成功した。

 両面電極構造の作製にあたっては、同研究所が開発したスクリーンオフセット印刷法を利用した。まず、転写体となるシリコーンゴムに下部電極となる導電インクをスクリーン印刷し、その上にセンサーの基材となるフィルムを押し付ける。そのフィルムに上部電極を印刷した後、下部電極をフィルムに写し取りつつ、シリコーンゴムを剥がす手法だ。両面のインクを一度の加熱で焼成するため、形成プロセスの時間も大幅に短縮する。

 この技術は、使用者に精神的・肉体的負担をかけない見守りシステムの実用化につながる。また、今後はこれらのセンサーから集めた測定データを基にした、事故や病気の予兆を捉える技術の確立や、計測装置の小型化、無線化、センサーをさらに高感度化して心拍、脈拍も検出することなどを目指すとしている。

 

photo (a)フィルム状近接センサー、(b)畳ベッドの畳裏に貼った様子
photo (a)スクリーンオフセット印刷の概要、(b)〜(f)静電容量型フィルム状近接センサーの電極作製法
photo (a)ベッドセンサーとして使用する際のイメージ図、(b)ベッド上で人が周期的に呼吸した際のセンサーの静電容量値

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.