人工知能の奇跡的な復権SYSTEM DESIGN JOURNAL(1/7 ページ)

囲碁王者への勝利を果たすなどAI(人工知能)への注目は依然として高くありますが、研究史を知る身からすれば、AIへの興奮はジェットコースターのようなものであるとも感じられます。多岐にわたる成果を挙げ始めた現代のAIは何が違うのでしょうか。

» 2016年04月21日 09時00分 公開
[Ron Wilson(Editor-in-chief,Altera),MONOist]

 2016年1月下旬、コンピューティングの世界は2つの大きな節目を越えましたが、それらがほとんど注目を集めることはありませんでした。1つはArtificial Intelligence(AI:人工知能)の先駆者でありリーダーであったMarvin Minsky氏の死去という始まりの終わりを示す節目であり、もう1つは恐らく新しい時代の始まりを示すものです。

 Minsky氏の死去からほんの数日後、「Nature」誌にてコンピュータ(Googleの「Alpha Go」)がヨーロッパの囲碁チャンピオンであるFan Hui氏に5回の公式対戦で全勝したことが報じられました。見込みなしとして1970年代に道端へ捨てられたAIが復活し(図1)、新たな研究、衆目を集める実演、ロボット嫌いの人々が抱く恐怖の波、システムデザインの幾つかのカテゴリを大々的に再考させる契機となったのです(注:その後、Alpha Goは世界チャンピオンであるイ・セドルにも4勝1敗と勝ち越した)。

photo 図1. AIはフランケンシュタインのモンスターのように、初期アイデアの寄せ集めから復活したと思われます

 AIの定義付けには一呼吸おく必要があるでしょう。AIの標準的な説明はチューリングテストであり、大まかに言うと「定義はできないが、分からない時、それはAIである」というものです。もっとくだけて言うと、通常は生き物と関連付けられるタスクを人間が介入せずに行うシステムを実現します。

 どちらの定義を選んでも、AIはジェットコースターのような存在でした。興奮がピークに達したのは、MITのMinsky氏らといった研究チームが自然言語テキストの構文を解析したり、カメラで物体を認識してロボットアームで操作したりするメインフレームコンピュータソフトウェアを初めて示した1960年代でした。その後は進歩がなく、10年以上ほとんど何も起こっていないと思われていました。

 1980年代には、エキスパートシステム、ファジーロジック、ニューラルネットワークなどのアイデアに関心が集まりましたが、その中で生まれたシステムは拡張や一般化ができなかったため、この波も消えました。

 今日、また新たな波が押し寄せています。人間が行うゲームでの対戦、物体の写真の識別、状況の認識、自律走行車の制御といった多岐にわたる領域で新しい有望な成果が見られています。今回はこれまでと違うのでしょうか。

3つの基本

 その疑問に答えるには、ラベルからアルゴリズムに視線を移す必要があります。この観点から見ると、AIの歴史はルールベースのシステム、神経生物学、超並列検索(図 2)という3つの大きなアイデアの相互作用として見ることができます。

photo 図 2. さまざまな分野の3つの研究の流れが合わさって、今日のAIの考えが生まれました

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