“オール日立”の自動運転技術はレベル2の最終形態を目指す自動運転技術 日立オートモティブ インタビュー(2/3 ページ)

» 2016年04月26日 10時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

自動運転用ECUを2017年に製品化

単一車線の走行自動運転での車線変更 2016年2月に日立オートモティブシステムズとして初となる、自動運転の公道試験を行った。単一車線を走行する様子(左)と、ドライバーの方向指示器の操作によって自動で車線変更する様子(右) (クリックして拡大) 出典:日立オートモティブシステムズ

MONOist ステップ3以降はどのような取り組みを計画しているか。

内山氏 2016年度に取り組むステップ3は、構築すべき技術のめどは立っている。具体的には自動運転用ECUのミドルウェアで、センサーフュージョンやアプリケーションが必要とする情報を、高速かつ確実に送り出すコンテキストマネジメントが可能なプラットフォームを仕上げる。これらの機能を動作させられる段階まで進んだので、今後は自動車メーカーに納入できる形まで仕立てていく。2016年に内部開発を完了させ、2017〜2018年の採用を目指す。

 また、機能の統合や機能安全、システムの二重化も課題になる。ここでは日立グループが手掛ける鉄道分野での経験が強みになる。日立製作所は、鉄道の自律分散システムという、ある機能が死んでも他の機能が代替できるようにして信頼性を高める技術で実績がある。これをクルマに組み込むことを考えている。自動運転システムには、公道を走る自動運転用と自動駐車用のECUがそれぞれ存在する。これらは機能としては統合してもいいが、信頼性の面では2つとも残しておくメリットもある。ECU同士が相互に監視することで二重化できるので、信頼性向上の仕組みとして提案できるだろう。

MONOist ECUの小型化も求められる。

内山氏 これは難しいところだ。現状、自動運転用ECUには車載レベルのSoC(System on Chip)を使っている。ステップ2の取り組みでは、センサーフュージョンや計算処理に動作周波数が1GHzのARM系デュアルコアプロセッサを、制御には機能安全に対応可能なロックステップ付きで信頼性が高い、動作周波数300MHzのデュアルコアマイコンを使用している。CPU間の情報の処理は、かなり高速なインタフェースができており、APIをたたくとどちらのCPUも情報が出せるようになっている。アプリケーション側から見れば、どちらのCPUに機能を載せても必要な情報を出せる。

 これを、アプリケーション開発を容易にするプラットフォーム「日立ADAPI(自動運転API)」として提案していく。ハードウェアが新しくなっても、日立ADAPIが変更点に対応する。

レベル2の自動運転の完成形とは

MONOist サプライヤである日立グループとして、どのレベルまでの自動運転技術を目指すのか。

内山氏 レベル2の自動運転の最終形態を作るのが当面の目標だ。ただ、レベル2の完成形は、レベル3の自動運転でシステムが責任を負う範囲が明確にならないと見えてこない部分もある。

 自動運転に求められる認識/認知/判断/制御のそれぞれで開発のロードマップがあり、作るべきものや開発しなければいけない技術は見えているが、性能の限界はまだ分からない。例えば自動運転システムの判断に人工知能が必要だ。人工知能がクルマをどう賢くできるか、運転についてどう学ぶことができるのか、これから明らかになってくるところだ。

 無人運転は個人的にはイメージが湧かない領域だ。長距離ドライブではなく、近所だけを移動するコミュニティーカー、所有せずに使うクルマとしては需要があるだろう。自動車メーカーが考えるのは顧客に“欲しい”と思ってもらうためのクルマづくりで、「このクルマはここが良い」と思ってもらうための個性を必要としている。今後、われわれは自動運転機能を作って自動車メーカーに横展開するのではなく、自動車メーカーが自動運転を実現するためのプラットフォームをより速く納入することを目指す。そのためにもドライバーが責任をとる範囲で可能な自動運転を突き詰めていく。

MONOist ドライバーが運転の責任を負うレベル2の自動運転はいつ完成するのか。

内山氏 レベル3以上の自動運転でドライバーとシステムの両方に関して責任を負う範囲が法律で明確にならなければ、ドライバー責任のレベル2の終わりは分らない。反対に、ドライバーが責任を取れる範囲で自動化するには、まだやらなければいけないことが多い。

 例えば、走行中にエンジンECUが故障するとエンジンは止まってしまうが、ブレーキもステアリングも操作可能なので、ドライバーはクルマを路肩に寄せることができる。レベル2の自動運転でも、ドライバーがクルマの異変を感じた時にあらゆる事象に対応するための余裕を作る必要がある。30秒かそれ以上の猶予を確保できるだけの安全性をシステムに持たせなければならない。

 自動運転の仕上げの段階では、運転のローカルルールに対応することも課題になるだろう。日本だけでも地域差があり、海外ではさらにローカルルールがさまざまになる。細かな運転の違いに対処するための情報を吸い上げてシステムに学習させ、自動運転の制御に反映させることが求められる。ローカルルールをクルマが学習するためにシーンを整理するには時間がかかりそうだ。

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