人と戦うために生まれたロボット「電王手さん」は“人へのやさしさ”でできている産業用ロボット(1/4 ページ)

人工知能やロボット技術の進化で、「人間 対 機械」のさまざまな対決に関心が集まっているが、2011年からプロ棋士とコンピュータが将棋の対局を行ってきたのが「電王戦」である。「電王戦」では2014年から指し手としてデンソーウェーブの産業用ロボットを採用している。この「人間 対 機械」の最前線に立つ「指し手ロボ」の開発担当者は、産業用ロボットの未来に何を見たのか。

» 2016年05月13日 08時00分 公開
[濱口翔太郎MONOist]

 将棋電王戦は、ドワンゴと日本将棋連盟が主催する、現役プロ棋士とコンピュータソフトとの真剣勝負だ。2011年に開催された第1回は永世棋聖の米長邦雄氏(故人)と第21回世界コンピュータ将棋選手権優勝ソフト「ボンクラーズ」が対局。第2回は、選抜された5人のプロ棋士と、第22回世界コンピュータ将棋選手権の成績上位5チームによる団体戦が行われた。いずれもコンピュータが勝利を収めている。

 従来の電王戦では、コンピュータソフトの指し手を人間が代理で指すスタイルだった。しかし主催者側の「より分かりやすく」という狙いから、2014年に初めて産業用ロボットアームを採用。コンピュータソフトが考える指し手をロボットアームが指し、プロ棋士と対局するというまさに「人間 対 機械」という構図を分かりやすく示す形となった。

 この「人間 対 機械」の最前線に立つことになったのが、デンソーウェーブの産業用ロボットである。2014年の「第3回将棋電王戦」に出場した「電王手くん」、2015年の「将棋電王戦FINAL」に出場した「電王手さん」に続き、2016年4月9〜10日および同年5月21〜22日の「第1期電王戦」にも「新電王手さん」が出場。3年にわたって「人間 対 機械」にふさわしい「指し手」としての役割を果たすために、開発・改善を進めてきた。

 この最前線に立ち続けてきた開発責任者は「人間 対 機械」の未来に何を見たのか。デンソーウェーブ 制御システム事業部 技術企画部 製品企画室室長の澤田洋祐氏に話を聞いた。

「電王手くん」から「電王手さん」へ

デンソーウェーブの澤田氏

MONOist 2016年4月9〜10日の「第1期電王戦」で対局に立った「新電王手さん」は、シリーズ3代目となります。あらためて過去の2代の産業用ロボットたちを振り返っていただけますか。

澤田氏 「電王手くん」は開発期間が非常に短く、かつ過去に例のない取り組みだったので、手探りの状況で自社の保有する技術を組み合わせて実現した(関連記事)。ベースは当社の産業用ロボット「VS-060」を用い、対局用のアルゴリズムや機能を追加した。将棋の駒はコンプレッサーによる吸着式のハンドで吸いつけ、「駒を指す」という動作を可能とした。とにかく最初のことだったので何とか無事に形にできたという感じだった。

 ただ、終わった後に課題として感じたのは、このハンドでは駒が「成る」際に、「駒を吸着したうえで一度『成り』専用の反転台に置いてひっくり返し、反対面に吸着しなおす」というプロセスを経る必要があることだ。対局の動作として不自然でもある他、時間がかかるというデメリットがあると考えた。

初代の代指しロボット「電王手くん」が対局する様子(クリックで拡大) 出典:デンソーウェーブ

澤田氏 2代目の「電王手さん」はこうした反省をもとに改善を進めた。アーム部分は「VS-050S2」という医療用ロボットをベースとした。この「VS-050S2」はデンソーとして初めてグッドデザイン賞を受賞した製品だ(関連記事)。さらに「電王手さん」では、ハンドの構造を大きく変更し、吸着式ではなく駒をはさんでつかむグリップ式を採用している。そのため、ハンド部分を回転させるだけで「成り」を可能にした。

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