カーデザイン基礎の基礎クルマから見るデザインの真価(10)(3/4 ページ)

» 2016年05月25日 10時00分 公開

クルマのデザインの根本を決めるのはパッケージング

 パッケージングとは、乗員の空間やエンジンなどの動力源、トランスミッションやサスペンションなどの部品をどのようにレイアウトするかという立体的な構築作業である。そしてこの部分は、「どんなクルマを創り出すのか」という基本構想、あるいは作り手側の意志を反映するものである。

 荒っぽくいえば、パッケージングが決まるとそのクルマの基本的なシルエットが確定する。エンジンやパワートレイン、サスペンションを収めるための必要空間サイズは決まってるし、長年の経験値の蓄積により、人間の乗せ方についても世界的な基本の“お約束”ができているからである。

 人間を中心とした空間の決まり方を少しばかり見てみよう。例えば横から見たシルエット。エンジンの搭載位置や駆動方式が確定したとすると、ある1つの点によってクルマの前半分のシルエットは決まる。

ドライバーの座らせ方を横から見るとロードスター パワートレインの置き方を確定させ、ある1つの点を定めると、クルマの前半分のシルエットが見えてくる (クリックして拡大) 出典:マツダ

 その「ある点」とは、人間の大たい部の付け根、股関節の位置でヒップポイント(HP)だ。実際のパッケージング作業においては規格化されたマネキンを用いており、そのマネキンの胴体と大たい部の回転中心をHPとしている。

 さて、車両フロアに対するHPの高さを定めると、運転操作への最適な背もたれの角度(トルソアングル)、大たい部と胴体の角度(ヒップアングル)、膝の角度(ニーアングル)やアクセルペダルをオフの状態での足首の角度(フットアングル)やかかとの位置(AHP)が決まる。

 エンジンの搭載位置や大きさが決まっていれば、エンジンルームと乗員室を仕切るバルクヘッドや最小寸法でのペダル位置が決まるので、これで横から見た時の最低限必要な運転席の前後方向サイズが決まる。

「プリウス」のカットモデルカットモデル2 人間の身体に基づいて、エンジンルームと乗員室の区切りやペダルの位置、上方視界や下方視界が理詰めで決まっていく。写真はトヨタ自動車「プリウス」のカットモデル。 (クリックして拡大)

 クルマの上下方向はというと、HPに対して図面上の眼の位置(アイポイント)が決まるので、必要な上方視界/下方視界を確保すると最小限のフロントウィンドウの上下開口サイズやウィンドウの角度も決まる。

 またHPとトルソアングルが決まると頭の位置が確定し、最低限に必要なヘッドクリアランスを設定するとルーフライニングの位置が決まる。ここでまた必要な最小成立寸法を加えるとボディの最低限のルーフ位置=全高が決まる、といった次第だ。

スズキ「イグニス」トヨタ自動車「オーリス」ダイハツ「ブーン」 パワートレイン、人の座り方が決まると、フロントウィンドウやヘッドクリアランス、全高も順に確定していく。写真はスズキ「イグニス」(左)、トヨタ自動車「オーリス」(中央)、ダイハツ「ブーン」(右) (クリックして拡大)

パッケージングがクルマの基本を形づくる

BMW「イセッタ」は特殊なパッケージングのクルマの1つ BMW「イセッタ」は特殊なパッケージングのクルマの1つ (クリックして拡大)

 先に述べたように、クルマにおいてのパッケージングは作り手の意志であり、基本骨格となる。

 例えば、BMC(British Motor Corporation)が1959年に発売した初代「MINI」は最小限のサイズに大人4人が乗るための最大空間を持たせるためにエンジンルームを最小限にする必要があった。これを実現するためにエンジンとトランスアクスルを2階建て構造にし、さらに横置きレイアウトにした。

 さらなるコンパクト化を図り2人乗りのシティコミューターを構想したMercedes-Benz「スマート」は、リアエンジンとドライバーとパッセンジャーを前後にずらして乗員の体感空間に余裕を持たせることを狙った。

 スタイリング以前のパッケージングの段階でクルマの基本的なプロポーションや素性は決まっているということを、頭の隅に置いておくとクルマの見方も変わってこないだろうか。当然のことであるがパッケージ段階からデザイナーの仕事は始まっている。パッケージングについて説明し始めると、これだけでも今回と次回でも書ききれなくなりそうなのでこれくらいに留めておく。

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