AUTOSAR導入でマネジメント層が果たすべき役割AUTOSAR〜はじめの一歩、そしてその未来(8)(2/3 ページ)

» 2016年06月02日 10時00分 公開

マネジメント層の特権を正しく活用する

 「導入担当者が頑張る」以外にも、乗り越える際の選択肢はある。例えば、早めに投資や準備に着手すること(図3)や、外部の支援を導入することなどだ。これらは、一般に導入担当者の裁量を超えることであろうから、「マネジメント層にしかできないこと」、いわば特権的な選択肢である。それを活用しない手はないだろう。

図3 図3 「頑張り具合」により制限される事象の地平線〜面積Sの結果を得るのに、t2から開始して2倍頑張るか、t1から開始して2倍時間をかけるかは、マネジメント層の意思決定次第(クリックで拡大)

 投資を早めに行うということに対しては、「今日使うことができる100円は、明日にならないと使えない100円よりも価値がある」という反論もあるだろう。「再利用」や「自動化」は、その性質上、投資しなければ効果は得られず、また投資回収までにある程度の時間を要する。「果たして効果はあるのか」と疑問視する向きもあるし、再利用の失敗例はいくらでもある※2)

 さらに、再利用を積極的に行った場合とそうではない場合の比較、特に数値化は、容易なことではない。現状に対する数値化を長年行っているのでもなければ現状の把握ですら難しいだろう。Automotive SPICE(A-SPICE)のProcess Assessment Model(PAM)などでも引用されているISO/IEC 15504-2:2003/Cor.1:2004 Software engineering - Process assessment - Part 2: Performing an assessmentのプロセス能力指標においては、測定はLevel 4と位置付けられており、高度な段階で得られるものだ。

 しかし、実際に効果を得ている例は幾つもある。公開情報に乏しいため具体的な例を紹介できないのは残念であるが、どうか、「これまではうまく行かなかったから、今後もうまく行くはずがない」と、諦めないでいただきたい。実際に、時間が解決したものや、以前はできなかったことが今は比較的容易になっているという事例はいくらでもある。AUTOSARの規格そのものも、それに基づく製品も、日々改良が進んでいる。

 実は、「いまさら成功なんかされては困るんだよ」という耳打ちをいただき当惑したことは、一度や二度では決してない※3)。ひょっとしたら、過去のうまくいかなかった経験による「諦めの拡大再生産」の一種なのかもしれない。しかし、過去にうまくいかなかったのは、単に「時が来ていなかっただけ」「状況がそろっていなかっただけ」かもしれない、そう考えてみることはできないだろうか。そうすることで、もう一度向き合っていただく機会をお持ちいただけるならば幸いである。

注釈

※2)例えば、レブソン(Leveson)著「セーフウェア(Safeware)」でも紹介されている、放射線治療器「Therac-25」やロケット「Ariane-5」における重大事故。ソフトウェア流用元の機種では顕在化しなかった、あるいは、事故が起きていなかった。使用される状況(ハードウェア構成や想定使用条件など)の変化に対して適切な対処が取られなければ、ソフトウェア再利用はむしろ安全性を損ねるということは、度々指摘されている。

※3)そこまでに至ったいきさつやご苦労はある程度想像できる。また、力及ばず終わってしまったことに対し責任を感じている部分もお有りなのだろうとも想像する。そのため、一概に批判しようとは決して思ってはいないので、お心当たりの方々はお気を悪くなさらないでいただきたい。また、もしも「他の人が解決してしまうことによって、自分が不利になるのではないか」というような不安を引き続きお持ちなのであれば、ぜひご相談いただきたい。もしかしたらお力になれることもあるかもしれない。


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