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» 2016年07月12日 09時00分 UPDATE

クルマから見るデザインの真価(11):カーデザイナーの仕事は「色や造形を考える」だけではない (1/5)

デザインには「誰のためにどんな価値を提供するのか。その導線としてどのような体験が必要か」といったコンセプトと、「そのコンセプトを具現化するにはどのような姿形が必要か」というスタイリング、2つの側面がある。カーデザインも、コンセプトを描き、提供する価値の“メートル原器”を作るところから始まる。

[林田浩一/林田浩一事務所,MONOist]

 前回はカーデザインにまつわる主な要素について紹介した。今回は、商品開発プロセスの中でデザイナーがどのようなことをしているのかを紹介しながら「実際のところデザイナーって何をする人?」という疑問に答えていきたい。

 クルマの開発は一般的な工業製品の商品開発プロセスと基本的に同様で、商品企画や基本構想、デザイン設計の後、試作や評価試験を経て量産といった流れで進む。

 全くの新規モデルの立ち上げ/フルモデルチェンジ/マイナーチェンジのそれぞれでデザイナーが関わり始める段階は多少異なるが、基本的には初期の企画構想から製造まで、全ての段階でデザイナーに役割がある。そして、それぞれの段階で少しずつ異なることをやっている。色や造形を考えるだけではないのだ。デザイナーの仕事を商品開発プロスに沿って見てみよう。

ステップ1 商品企画

デザイナーがやっていること

  • コンセプトや目指すイメージを開発チームで共有するためのビジュアル化
  • ディスカッションを拡散、あるいは収束/整理させていくサポート

 デザインには「誰のためにどんな価値を提供するのか。その導線としてどのような体験が必要か」といったコンセプトと、「そのコンセプトを具現化するにはどのような姿形が必要か」というスタイリング、2つの側面がある。カーデザインも、コンセプトを描き、提供する価値の“メートル原器”を作るところから始まる。

 最初の作業は商品企画や基本構想などと呼ばれ、以下のような点を議論する。

  • 想定するユーザーはどんな人か
  • その人たちへの提供価値は何か、購入する理由は何か
  • どのような形で提供するのが良いのか

 クルマの開発において特徴的なのは、主査制度と呼ばれる開発における組織マネジメントの仕組みだ。モデルごとに「機種担当主査」とか「チーフエンジニア」と呼ばれるリーダーがいる。このリーダーは1つのモデルにおける事業部長や社長のようなもので、担当するモデルについて全ての責任を負う。

 会社や事業部のトップが事業計画を立てるのと同じように、主査は担当モデルにおいての“事業計画”を作る。メーカーによって名称は異なるが、主査構想などと呼ばれるものである。

 どんなコンセプトの商品で、どのように世の中に価値を訴求し顧客を得るのか。どのような資源を投入して、どれくらいのリターンを狙うのか。その期間はどの程度になるのか……などなど、主査構想には製品とビジネスの両方の計画が含まれる。企業全体の事業計画と同じである。

目指すイメージを形にするための議論

 開発初期段階の商品企画は、主査構想を具現化させる工程となる。この段階では、デザイナーはディスカッションを活発にさせたり内容を整理したり、開発チームの目線を合わせるといった役割を担う。もちろんクルマのスケッチも描かれるが、問題なく量産できるカタチを描いたスケッチとはなっていない。

デミオスケッチ マツダの小型車「デミオ」の量産モデル(左)とスケッチ(右)。スケッチ画は量産時の形に近い (クリックして拡大) 出典:マツダ
ムラーノスケッチ画 日産自動車のSUV「ムラーノ」の量産仕様(左)とスケッチ(右)。イメージを共有するスケッチだといえよう (クリックして拡大) 出典:日産自動車

 この段階でのスケッチは、開発チームで求める理想的なイメージを共有するためのものである。クルマそのものだけではなく、想定ユーザー像やライフスタイルのイメージをビジュアル化することもある。

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