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» 2016年07月22日 07時00分 UPDATE

ロボットの“PARC”「Willow Garage」が撒いた種 (3/4)

[河本 和宏,MONOist]

利益は二の次、研究者にとっての遊び場の設立

 産声をあげたばかりのWillow Garageは、多様なメンバーを束ねるリーダーとして、Steve Cousins氏をCEOに迎え入れた。Hassan氏はワシントン大学で学生の時、Cousins氏にインターンとして迎えられたことのある関係だった。

 2人は年間60人の研究者を賄える資金計画のもと、世界トップレベルの研究者やロボット技術者を採用し、“Impact first and return on capital second”の方針で事業を進めた。研究者たちは潤沢な資金を背景に、無料の食べ物や飲み物を楽しみながら、ロボットに洗濯物を畳ませるといったプロジェクトに取り組むことができたため、研究者にとってはまさに遊び場のような職場環境だったという。

 設立当初はDARPA(米国防高等研究計画局)プロジェクトへの取り組みなど幾つか方向性が示されていたが、次第に最終目標であったパーソナルロボットの研究開発へと向かっていった。注力していたのは標準ロボット「PR2」とそれを動かすソフトウェア「ROS」の開発だ。その発端はHassan氏、Cousins氏の両氏とスタンフォード大学大学院生たちとの出会いだ。

 スタンフォード大学の研究所でPR2の原型となる(当時はまだ木製の)ロボットを作っていた2人の大学院生、Keenan Wyrobek氏とEric Berger氏と意気投合し、それ以降、Willow Garageは自社のリソースをPR2とROSの開発に傾けることになる。また、大半の社員はPR2とROSのプロジェクトに関わっていたが、それらのプロジェクトに関わっていないときには、コンピュータビジョンや触覚フィードバックの研究も進められた。

 2010年の販売開始まで実に4年の歳月をかけて開発されたPR2は、それまでの提携大学との共同研究や、積極的な外部研究者およびインターン学生受け入れといった努力もあり、ロボットコミュニティーから大いに歓迎された。そして、Willow Garageの出身者はロボット業界において、“Willow Mafia”と囁かれるほどの影響力を持つようになった。サンフランシスコのハードウェアアクセラレータ(スタートアップ支援)であるHighway1のBrady Forrest氏は「Willow Garageはロボット版ペイパルマフィアだ」と述べている。

遊び場から起業家集団、そして閉鎖へ

 ROSとPR2が成功した後、Willow Garageは研究成果の事業化へと舵を切り、「ロボット研究者にとっての遊び場」から「ロボット起業家集団」へと変貌していく。アイデアが持ち上がれば、Hassan氏は別会社として独立させ、出資するようになった。「結果的には多くの人がスタートアップ熱に取りつかれていった」とCousins氏は当時を回想している。Willow Garageは8社をスピンアウトさせ、2013年にはそのうち2社がGoogleに買収された。

 スピンアウトした企業のうち最もHassan氏を興奮させたのがテレプレゼンスという新しい市場を切り開いたSuitable Technologiesだった。Hassan氏は約10人のWillow Garage社員を引き連れ、Beamと呼ばれる、車輪の付いた胴体の上に操作者の顔を映し出すディスプレイを備えた移動ロボットと遠隔操作システムの開発に熱を上げるようになった。

 当時のWillow Garageは年間2000万ドルの損失を出していた。Hassan氏は家の中をロボットが動きまって生活支援をする世界の到来がまだ遙か先にあることを悟り、2013年後半には出資を引き上げてSuitable Technologiesの経営に専念することを決めた。なお、彼が時期尚早と判断したのは、ソフトウェアの制約のためではない。以前より下がったとはいえ、単純な機能を実現することさえまだまだコストの掛かってしまうハードウェアの制約のためだということだ。

 その後もしばらくはTurtleBotなどの販売・サポートなどを続けていたWillow Garageだったが、現在ではClearpath Roboticsなどに業務を任せており、実質的に活動は見られなくなった。ROSについては開発者コミュニティー主導で発展を続けられるよう、非営利団体としてスピンアウトさせた。

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