ロボット開発に学ぶ、モノづくりへのOSS活用ポイント(4/5 ページ)

» 2016年09月15日 11時00分 公開
[河本 和宏MONOist]
  • 3.「オープン」と「クローズ」の考え方

 自社製品や技術をどこまでオープンにすべきかも、要検討のポイントだろう。企業ごとの事情による部分が大きい課題だが、OSSにおける基本的な考え方は「差別化につながらないものは全てオープンにする」というものだ。

photo Saviokeのホテル向け執事ロボット

 ホテル用商品配達ロボットを開発するSaviokeの例を挙げよう。Saviokeは2次元SLAMを使った移動に関する部分は汎用技術と位置付けてオープンにする一方、ホテルというアプリケーションに特化したソフトウェア(エレベーターの開閉など)についてはクローズにしている。SLAMについてはROSの標準的なものを出発点として、開発中に調整を行ったもののうち、ROS共通で使えるものについてはSLAMのライブラリを更新し、そうでなければ自社のパッケージにまとめてオープンにするという方針だ。

 倉庫での作業補助ロボットを開発するFetch Roboticsはもう一歩踏み込んで、ロボットのシミュレーターまで公開している。シミュレーターを公開するということはロボットの3次元モデル(筺体)、制御モジュール、センサーの情報も一定以上公開しているということであり、他社がハードウェアの振る舞いを理解する上では十分な情報といえるだろう。

 さすがに、ロボットの機構、モータ、ギアなどの細かい部品情報やアセンブリ情報、モータドライバのハードウェアおよびファームウェアなどの低位の制御ソフトウェアや電気回路技術についてはクローズになっており、ハードウェアそのものを他社がそっくり再現するのは難しい。

 それでも、ここまでオープンにするには、通常は企業としても神経質にならざるを得ないところだが、Fetch Roboticsでは倉庫環境での作り込みに独自ノウハウを確立しているため、それ以外はオープンにするという方針らしい。

Fetch Robotics「Freight」の作業風景

 この会社にはWillow Garage出身者が多く、ROS開発者コミュニティー自体を盛り上げていこうとする気概が感じられる。Fetch RoboticsのロボットはROSの使用比率が高く、かつて最高技術責任者(CTO)のMichael Ferguson氏も「OSSを採用することによってジャンプスタートできた」と公言した。

 ROSコミュニティーに開発者が集まるほど自分たちもリターンを得られるということだろう。実際、ROSの開発者会議やROSの開発運用を行うOSRF(Open Source Robotics Foundation)では、スタートアップであるにもかかわらず、しばしば最高額の寄付を行う会社となっている。

Willow Garageのコミュニティー作りから学べること

 最後に、TORKのメンバーともつながりの深いWillow Garageが、ROSコミュニティーの立ち上げとマネジメントをどのように行っていたのかについてもまとめておく。

 まずはロボット研究のトップを走る10の大学と1つの企業に約4千万円のロボット「PR2」を無償で配り、ワークショップを行った。その際にWillow Garageの開発チームは“Please complain”と言い添えたと言われている。

 これら研究機関はパートナーとして無償でロボットを提供された代わりに、問題報告やパッチテスト、改善提案など、開発へのフィードバックを行い、また、研究で使われたソースコードを全てオープンにした。自律移動するPR2がエレベーターに乗り、階下にサンドイッチを買いに行く東京大・ミュンヘン工科大チームのデモをご覧になった方も多いだろうが、こうした印象的な開発がスピード感を持って次々に公開された。

「サンドイッチ持ってきて」と頼まれたPR2が冷蔵庫に入ってないことを確認して、階下の売店に買いに行く。2011年の映像

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.