円高円安が激しく入れ替わる中でのモノづくりの目指す姿鈴村道場(4)(1/4 ページ)

トヨタ生産方式の達人・鈴村尚久氏による連載コラム「鈴村道場」。今回は、円高や円安など、為替レートが激しく入れ替わる中でのモノづくりの目指すべき姿について解説する。

» 2016年10月13日 13時00分 公開

 2015年に一時、1米ドル=125円を突破するほどの円安ドル高になりました。しかし、原稿執筆時の2016年9月は同105円前後で推移しており、2017年には同100円を切ることが予想されるなど、円高ドル安に転じています。2014年以降の円安傾向によって製造業の国内回帰が進みましたが、また円高に転じるのであれば、再度海外生産に戻した方が良いのでしょうか。

 今回は、円高円安など為替レートが激しく入れ替わる中でのモノづくりの目指すべき姿について私の考え方を述べたいと思います。

一般的なモノづくりのあるべき姿とその課題

 モノづくりのあるべき姿は「同じ国の中で作って売る」ことです。その理由は以下の2点になります。

  1. 為替差が発生しない
  2. 生産者と使用者の品質などに対する肌感覚が近いので、品質やコストパフォーマンスが合いやすい

 ですが、生産拠点を各国に設ける必要があり、大きな投資が掛かるとともに人材育成にも時間がかかるため、経営者はこの選択をなかなかしません。

 むしろ「できる限り1カ所でまとめて作ることにより安いコストで物を作って供給しよう」と考えます。この場合、販売する国と異なる国で生産するため、為替変動のリスクを全面に受けることになります。さらに一国で集中生産となると、連載第2回で説明したように重大災害が発生した場合に全てのサプライチェーンに悪影響が出てしまいます。

 分かりやすく言うと、儲かるときは儲かるが、歯車が狂うと一気に企業存続が困難になるリスクの大きい選択と言えます。

図1 図1 一般的なものづくりのあるべき姿と課題(クリックで拡大)

鈴村氏が提唱するモノづくりのあるべき姿

 私は、モノづくりの生産拠点分担について、次に挙げるような優先度によって行うのが良いと思います。

優先度1

 地産地消。できる限り販売する国で生産する。為替変動のリスクを最小限に留めることになります。

優先度2

 1を選択できない場合、大量に売れる品番のうち、必ず毎月確実に販売できる固定量分は主要生産国で生産/輸出し、変動する分は販売する国で生産する。

 ある程度、安いコストも利用できるし、為替変動も少なくできる。また、ある国で災害が起こっても他の国に影響を与えることがありません。リスクを最小限に留める安定した選択肢と言えます。

 海外では賃金がいくら安くても、品質が安定しないことによるロスの発生の多さや物流コスト(輸送、通関費用、倉庫保管料、荷役費)を考慮すると、変動する分を販売する現地で生産してもコスト競争力を確保できるのです。

 例えば、販売する国を日本とすると、日本における生産の割合は、円高円安による為替変動差を0に近づける工夫をすることを考えて決めます。具体的に言うと「海外から買うものと海外へ売るものをイコールにすること」です。

 ただ、日本人の私達からすると、日本から海外へ売るものを増やす(=輸出の増加)ことにならないと日本が儲からず衰退してしまいます。だから、材料を仕入れて日本で生産し完成品を輸出することは大事なのです。

図2 図2 鈴村氏が提唱するモノづくりのあるべき姿(クリックで拡大)
       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.