特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜
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» 2016年11月08日 11時00分 UPDATE

製造業×IoT キーマンインタビュー:“次の100年の礎”に、ヤンマーのIoT戦略は「B2B2M2C」 (2/4)

[朴尚洙,MONOist]

まず社内コミュニケーション基盤を確立

MONOist 「顧客へのサービス向上」に向けてどのような取り組みを進めたのでしょうか。

矢島氏 まずヤンマーのITにかける予算やその比率などを検討し直し、売上高に対するIT投資比率を1%未満の状態から1.3%に引き上げた。また、従来はIT予算のうち、87%が維持コスト、13%が新規導入だったところを、維持コスト60%、新規導入40%に変えた。同じ内容の維持コストであれば、年率8〜10%で必ず値下げさせることも徹底させている。

 次に行ったのが社内コミュニケーション基盤の確立だ。「顧客へのサービス向上」の必要条件となるのは、社内におけるさまざまな情報をスムーズに流すことであり、そのためにはヤンマー全社をグローバル全体でつなぐ社内コミュニケーション基盤が必要だと考えた。

 2013年にヤンマーは持株会社制に移行している。その前は、事業会社ごとにバラバラの体制だったわけだが、なんとBOM(部品表)と3次元CADは統一されていた。これはとてつもなくすごいこと。その一方で、対顧客系のシステムは良いとは言えない状態だった。例えば、ヤンマーアグリジャパンという農機営業の子会社は、各支店に1〜2台しかPCがなかった。そんな状態で「eラーニングをやろう」と言っても、限られた台数のPCしかないので無理だ。

 そういった状況を把握した上で、社内コミュニケーション基盤の確立を進めた。導入したのはマイクロソフト(Microsoft)の「Office365」で、国内1万5000人、世界6万人の社員全員をつないで働き方改革の礎とした。当初2年半の計画だったが、クラウドの活用で1年4カ月で完了させる」ことができた。

MONOist 全社を貫くITシステムを早期導入しようとするといろいろと反発があるかと思います。そういった問題はありませんでしたか。

矢島氏 ITシステムの導入で重要だと考えているのは、情報システム部門側がだけで実施するのではなく、担当部門と一緒になって進めることだろう。この社内コミュニケーション基盤であれば、人事部門が中心になって、情報システム部門がそれを支えるという形になる。製造系のPDM/PLMなどについても同様で、技術部門が中心となり、情報システム部門が支える。情報システム部門はゴルフのキャディに当たる存在だと考えている。

MONOist 社内コミュニケーション基盤を確立した後は、どういった取り組みを行いましたか。

矢島氏 社内コミュニケーション基盤を確立したことで、先述した「顧客へのサービス向上」のための第一歩となる、農機営業のIT環境の改革に乗り出せた。2015年12月からは、農機営業に「iPad」の配布を始めている。これは1年間の計画だが、2016年8月時点で90%導入が終わっており、その活用率も85%を超えた。このiPadには商品提案に使える動画コンテンツなどの営業ツールの他、日報システムも組み込んだ。この日報システムによって、営業の管理層から、各営業担当に活動提案することもできる

 この活用率の高さは、iPadに毎日流されるコンテンツによるところが大きい。ある派遣の女性社員に担当してもらっていたのだが、現在は正社員として登用し、コンテンツの充実に努めてもらっている。また、農機営業のIT環境改革を進める中で感じているのが、ヤンマー社員の質の高さだ。素直に動くし、スピード感もある。

MONOist 社内コミュニケーション基盤以外にも、全社統一のITシステムを導入していくのでしょうか。

矢島氏 私は、企業に導入するITシステムについて、業務プロセスレベルと情報統合レベルというマトリックスで捉えている。全社で統一しなければならないのは、業務プロセスレベル、情報統合レベルとも最高レベルの場合だけだ。その見地から言えば、全社で統一すべきITシステムは、社内コミュニケーション基盤と、製造系のPDM/PLMだけだと考えている。

MONOist 最近の製造業のトレンドではERPも全社統一するITシステムの対象になっているようですが。

矢島氏 実は一度、「ベストプラクティス」をうたう全社統一のERP導入計画があった。しかし、先述のマトリックスから判断して、ヤンマーではERPを全社で統一する必要はないと考え、この導入計画を中止した。

 例えば財務会計で考えてみよう。上場企業であれば確かにERPの統合は必要かもしれないが、ヤンマーは非上場だ。各社、各地域でうまくやれていれば問題はなく、情報をきちんと収集する仕組みを作ればいいだけの話だ。シャドーITうんぬんの問題は、社内に設置しているIT検定委員会を通してマトリックスを基にマッピングして、それに合わせて情報を共有する仕組みをつくれば良い。

 現在のヤンマーはM&Aも重視している。実際にM&Aを行えばIT統合は常に起こる課題になる。だからこそ全社で統一しなければならないITシステムは絞り込む。全社で統一するとともに本社側から提供するITシステムは、先述したコミュニケーション基盤と、商品開発のためのPDM/PLMだけ。他は、マトリックへのマッピングに従って、ITシステムを統合するのではなく、情報共有できる仕組みを構築することで対応する。

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