特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜
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» 2016年12月13日 11時00分 UPDATE

MONOist IoT Forum 東京(後編):世界を変える機械学習、1兆個のIoTデバイスを誰がプログラムするのか (1/2)

MONOistを含むITmediaの産業向け5メディアは、セミナー「MONOist IoT Forum IoTがもたらす製造業の革新 〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜」を開催。同セミナーのレポートを前後編でお送りする。

[三島一孝,MONOist]

 MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryなどの産業向け5メディアは2016年12月7日、東京都内でセミナー「MONOist IoT Forum IoTがもたらす製造業の革新 〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜」を開催した。「つながる工場」「つながる技術」「つながるサービス」の3つの切り口で各業界の先駆者たちが、「それぞれのIoT」について紹介した。

 前編では、基調講演に登壇した小松製作所(コマツ)の取締役 専務執行役員で、ICTソリューション本部長の黒本和憲氏と、特別講演に登壇したデンソーのDP-Factory IoT革新室長の加藤充氏の講演内容をお伝えした※)が、後編ではもう1つの特別講演に登壇したPreferred Networks(以下、PFN)の最高戦略責任者(CSO)丸山宏氏を含む、その他の講演についてお送りする。

※)関連記事:IoTが変える「製造業の在り方」、「ダントツ」の根幹には何があるのか

統計的機械学習がモノづくりを変える

 特別講演に登壇したPFNの丸山氏は「統計的機械学習はモノづくりの姿を変える可能性がある」と述べる。PFNは、深層学習(ディープラーニング)技術などを開発する人工知能関連ベンチャーで、トヨタ自動車やファナックなど、各業界のトップ企業と提携し、深層学習および機械学習の産業実装に注力している。

photo Preferred Networksの最高戦略責任者 丸山宏氏

 現在は第3次人工知能ブームとも言われており、今回のブームに対して冷ややかな目で見る人も多いが「それぞれのブームは意味があった」と丸山氏は語る。「第1次人工知能ブームのときには数値計算が主用途であったコンピュータの領域で記号処理が行えるようになった。第2次人工知能ブームの際にはコンピュータにおける知識表現が一般化した。そして現在の第3次人工知能ブームでは統計的機械学習や深層学習が定着することになるだろう」と丸山氏は述べる。

 そして、これらの機械学習の取り組みが、プログラム開発の現場を大きく変えると丸山氏は指摘する。「プログラムは基本的には入力があって、それに対する計算を行い、そして出力を出すというのが一連の基本の動きである。例えば、温度のセ氏をカ氏に変換する際、まず要件の定義をし、数式などによるモデル化を行い、そしてこれをプログラム化して実装するという流れを取る。しかし、統計的考えでいくとまずセ氏とカ氏それぞれの温度計をさまざまな条件で測定し温度分布を取る。まず測定してから考えるというやり方で、演繹的アプローチと、帰納的アプローチの違いだともいえる。これが統計的機械学習を用いることで製品開発にも利用できるようになる」と丸山氏は述べる。

 統計的機械学習は、以前からあった技術だが、こうしたアプローチが従来使われてこなかったのは、得られた結果が何かを示す最適化が難しかったからだ。また学習項目が増えすぎて(過学習)も、影響を受けて求める結果が出ないことが多かった。ただディープニューラルネットワークの発展により、最適化が容易になったことから、利用できる領域が広がったといえる。

 丸山氏は「なぜうまくいくのかというのは理論的には分からない。しかし、結果から見ると世の中の多くの問題は想定されているほど複雑でないのかもしれない。多くの問題は、複雑そうに見えても2〜10個のパラメータの相互連携が鍵をにぎるケースが大半である。こうした問題解決には統計的機械学習のアプローチが有効だ」と語る。

プログラミング環境は演繹型と帰納型を組み合わせる形に

 こうした統計的機械学習やディープニューラルネットワークが何を意味するのだろうか。丸山氏は「1兆個のIoTデバイスが世の中に生まれるといわれている。その1兆個ものデバイスを誰がプログラミングするのか。現在のV字プロセスの開発だけで、1兆個も生み出すことができるのか。こうした問題を解決する存在になるのが統計的機械学習やディープニューラルネットワークである」と強調する。

 プログラム開発の第1段階では「要件定義」を行うのが当たり前となっているが、環境の変化が激しい現代でこうした変化を組み込んで要件定義を行うのは非常に難しい。「こうした状況を解決するためにアジャイル開発やDevOpsなどの開発手法が生まれてきているわけだが、ただ変化に対応するプログラム開発としては統計的機械学習はこうした手法の先を行く技術であるといえる」と丸山氏はその価値について述べる。

 もちろん、統計的機械学習にもまだまだ課題はある。丸山氏は統計的機械学習が内包する3つの限界についても述べている。「統計的機械学習は3つの本質的限界を抱えている。1つ目が学習したデータ内であれば予測ができるがそうでない現象には対応できない。2つ目が統計を元にしているので100%があり得ない。確率の高い方を選択するというだけになる。3つ目が、機械学習により生まれたプログラムの説明責任についてである。生まれたプログラムの内容について説明できない可能性が残る。こうした課題は残される」と丸山氏は述べる。

 ただ、こうした課題は解決に向けて進んでいくと丸山氏は語る。「現在の状況はソフトウェア黎明期に似ている。その当時もソフトウェア危機とされてきたが、ソフトウェア工学が生まれて発展し現在の進化がある。機械学習についても同様のことが起きる。訓練データをどう作るか、ツールをどうするのか、データをどう管理するのか、実運用と学習モデルのズレをどう修正するのかなど、さまざまなノウハウが必要になるが、こうした課題を解決する機械学習工学が生まれる」と丸山氏は将来像について語る。

 さらに丸山氏は日本全国にいる25万人の組み込みソフトウェア技術者に向けて「こうした変化を学んでいかなければならない。演繹型の開発とともに帰納型の開発も同時に使えないといけない。モノづくりの現場は統計的機械学習により間違いなく変わっていく」とエールを送っている。

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