中小企業のメカ設計現場にとって「イノベーション」とは、「IoT」とは3D設計推進者の眼(16)(2/3 ページ)

» 2016年12月27日 10時00分 公開

 イノベーションとは、つまり「新たな社会的価値と経済的な価値を生み出すためにその技術や製品や手段というものを新しくすること、創造すること」であり、単純にいえば「世の中にないものを創造すること」と私は解釈しています。

 阪根氏は「『洗濯物を自動で折りたたむこと』と『イノベーション』がどうつながるのか」という切り口で話を進めました。同氏によれば、人が洗濯物を乾燥させた後、衣類を分類してたたむ時間が、一生涯で9000時間、日に換算すると375日にもなるそうです。要するに、1年以上に相当する時間を、人が洗濯物を折りたたむという家事に費やしているという計算です。

出典:セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ

 人がこの時間から解放されることそのものからは、「休める」という価値が生まれます。また人はこの削減された時間を使って「新たに何かをする」ことも可能になります。言い換えれば、この時間が自動化されれば、そこから新たな可能性を生み出すことができるというわけです。その対象は家事だけではなく、介護の現場にも該当します。これが、まさに価値の創造につながり、広く社会に変化をもたらすことも可能になるということでしょう。

 さらに興味を引いたのは、妥協のない技術追求でした。同社では、乾燥した衣類を何かしらの治具に人の手でくくり付けてから自動で折りたたませるような“半自動タイプ”ではなく、乾燥した衣類を装置に“放り込む”だけで折りたたむことが可能な“全自動タイプ”を実現しようと、妥協を許さずに設計開発を行っていたのです。

 多くの設計開発現場では、「仕様を満足する」という形で妥協が求められることがあります。エンジニアとしては、「もっと良くしたい」という意識も働いていると信じたいものですが、限られた納期や掛けることができるコストの中では、その設計開発内容には制約が生じます。制約によってその品質が下がるわけではありませんが、ここには妥協という意識が確かに働いているのではないでしょうか。今回のお話からは、イノベーションである以上は、妥協の産物ではなく、徹底的な技術の追求が必要であることを実感しました。

 「シーズを捨てて、ニーズを重要視せよ」というお話もありました。シーズとは、企業が持つ技術やノウハウ、アイデア、設備、人材といったもので、いわば「企業側の思考」です。ニーズとは市場、顧客の要求のことです。開発設計現場では、「自社の固有技術とは何か」と自社の技術のロードマップを策定していく場面がよくありますが、それまでの技術の延長線上でその開発テーマが決められていくことがほとんどです。ランドロイドも、主婦のニーズからが始まっています。イノベーションを実現するためには、シーズ思考ではなく、ニーズ思考であるべきだということですね。

 ランドロイドの開発においては、50歳代のエンジニア――阪根氏がいうには“おじさんエンジニア”の活躍があったということ。おじさんエンジニアは、その経験と技術力からくる問題解決力と忍耐力があるというお話がありました。私も一人のおじさんエンジニアとして共感しましたし、まだまだその可能性を信じたいと考えています。

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