特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

IoTでつながるクルマの未来――コネクテッドカーに向け電機業界がなすべきことIHS Industrial IoT Insight(2)(3/3 ページ)

» 2017年01月10日 11時00分 公開
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「ユビキタス」はなぜ死語になったのか

 IoTが黎明期を迎えた現在、半導体業界やICT(情報通信技術)業界で何が起きているか、これから何が起こりそうかについて整理してみよう。

 もともと、車載、産業機器分野では、MCU(マイコン)、Analog IC(アナログIC)、Power Discrete(個別パワー半導体)の需要が相対的に高く、これらは最先端プロセスを特に必要としない。この結果、最先端ではない8インチウエハーを使う半導体工場への回帰が起こっており、中古装置の価格が暴騰する、といった現象も見られている。

 またMCUはARMコアの比率が高まっており、企業ごとの差別化がしにくくなっている。結果としてAnalog ICでの差別化が重要視され、M&Aが多発していることも見逃せない。

 Analog IC業界、車載半導体業界を意識したM&Aは、今後も続くだろうと筆者は予測している。

 ICT業界では、Apple(アップル)、Google(グーグル)を中心とした動きが当面は続くだろう。スマホはIoTのキーデバイスであり、スマホのアプリと連動することで新しいサービスが実現する、という事例が続々と登場している。

 「新車はスマホとつながらないと売れない」という自動車メーカーにとって、AppleやGoogleとの対話を重要視するのは必然かもしれない。しかし、この2社が自動車メーカーにどんな価値を与えてくれるのか、自動車もIoT端末の1つと考える2社を自動車メーカーの味方と考えて良いのか、注意が必要だろう。

 そもそもIoTは資産の有効活用や効率化を目的とする手段である。自動車へのIoTの適用が進んだ場合に、カーシェアリングが普及して新車が売れなくなるのではないか、IoTで車載ソフトウェアの更新ができるようになってディーラーの仕事が減るのではないか、という心配事も出てくる。ユーザーの負担軽減や利便性を追求すると、従来型のビジネスの一部が成立しなくなる場合があるのだ。

 冒頭に「IoTという単語をあまり使わないように心掛けている」と申し上げたのは、実体のない概念的な単語に振り回されていると、事業の具体化が進まなくなる、という懸念があるからだ。

 古い話で恐縮だが、かつて日系半導体メーカーの多くは、DRAM事業から撤退する際、「これからの戦略商品はシステムLSI、ターゲット市場はユビキタス」などと唱えていた。しかしシステムLSIもユビキタスも概念的な単語にすぎず、実体を伴っていたとは言い難い。

 「ユビキタス」とは、インターネットなどの情報ネットワークに、いつでも、どこからでもアクセスできる環境を指す概念語だった訳だが、今にして思えば、これはスマホのことを指していたように思える。その証拠に、スマホが普及した現在、「ユビキタス」は完全な死語となった。しかし、スマホにシステムLSIを売り込めた日系半導体メーカーは残念ながら1社も存在しない。実体のない概念的な単語に振り回され、事業の具体化が進まなかった典型的な例である。

 二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、日系各社は「IoT」などという概念語に振り回されることなく、具体的なサービスの実現を目指して事業を推進して頂きたいと願っている。

プロフィール

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大山 聡(おおやま さとる) IHSテクノロジー 主席アナリスト

1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職し、半導体部門の経営戦略に従事。2010年より現職で、二次電池をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。

IHS Markit Technology
https://www.ihsjapan.co.jp/

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