革新企業トップ100で日本は3年連続最多ならず、原因は「量から質への転換」知財ニュース(1/2 ページ)

クラリベイト アナリティクスは、保有する特許データを基に知財・特許動向を分析し、世界で最も革新的な企業100社を選出する「Top 100 グローバル・イノベーター 2016」を発表。2014〜2015年の2年連続で、100社中の国別企業数1位だった日本だが、2016年は34社と前年比で6社減となり、39社と同5社増えた米国に1位を奪還された。

» 2017年01月11日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 Clarivate Analytics(クラリベイト アナリティクス)は2017年1月11日、保有する特許データを基に知財・特許動向を分析し、世界で最も革新的な企業100社を選出する「Top 100 グローバル・イノベーター 2016」を発表した。2014〜2015年の2年連続で、100社中の国別企業数1位だった日本だが、2016年は34社と前年比で6社減となり、39社と同5社増えた米国に1位を奪還された。

 クラリベイト アナリティクスは、情報サービス企業であるトムソン・ロイターのIP&Science事業部が2016年10月に独立した企業である。Top 100 グローバル・イノベーターは2011年から毎年発表しており今回で6回目となる。選定基準は、取得した特許の数量である「特許数」、出願した特許が登録される「成功率」、日本、米国、欧州、中国という主要4市場における特許出願を計測する「グローバル性」、そして他社の発明への引用数を見る「影響力」の4つ。今回選定された100社の売上高累計(2015年)は4兆米ドル(約463兆円)、研究開発の投資総額は2270億米ドル(約26兆3000億円)に及ぶという。

「Top 100 グローバル・イノベーター」の選定基準 「Top 100 グローバル・イノベーター」の選定基準(クリックで拡大) 出典:クラリベイト アナリティクス
クラリベイト アナリティクスのデービッド・ブラウン氏 クラリベイト アナリティクスのデービッド・ブラウン氏

 クラリベイト アナリティクスの米国本社でエグゼクティブ・バイス・プレジデントを務めるデービッド・ブラウン氏は「2016年のTop 100 グローバル・イノベーターの100社からは、特許出願数が減った一方で、成功率は上がっているという傾向がみられた。世界全体として特許の出願数は年々増加しているが、Top 100に入るようなイノベーティブな企業は『量』から『質』に移行しており、2016年はそれが具現化した年だった」と語る。

 量から質への転換は、日本企業の社数減の一因にもなっている。「もともと日本企業は成功率が高いことを特徴にしていた。2016年は日本以外の企業が成功率を高めることに注力した結果、そのあおりを受けた格好だ」(クラリベイト アナリティクス日本法人のシニア・ディレクター 知財情報事業統括の斉藤太氏)という。

 選定された34社の日本企業のうち、キヤノン、富士通、日立製作所、ホンダ、NEC、日東電工、NTT、オリンパス、パナソニック、セイコーエプソン、信越化学工業、ソニー、東芝、トヨタ自動車(英文企業名のアルファベット順)の14社は、6年連続で選定されている。6年連続選定されている企業は39社なので、3分の1を日本企業が占めることになる。また、ルネサス エレクトロニクスが今回初選出の日本企業となった。

 なお2015年に選定された日本企業のうち2016年に落選したのは、カシオ計算機、古川電工、出光興産、科学技術振興機構(JST)、三菱電機、三菱化学、東レ、ヤマハ発動機の7社である。

 海外企業で見ると、米国企業が39社、フランス企業が10社、ドイツ企業が4社、韓国企業が3社、スイス企業が3社、オランダ企業が2社と続く。中国、フィンランド、アイルランド、スウェーデン、台湾が1社ずつとなっている。

⇒トップ100社に入った日本企業と海外企業のリストはこちら

ジェイテクトと矢崎総業が特許戦略を語る

 Top 100 グローバル・イノベーター 2016において、日本企業が傑出しているのが自動車分野だ。100社のうち自動車分野から9社が選定されているが、7社を日本企業が占めている。

 クラリベイト アナリティクスが行った会見では、これら7社のうち、2015年から2年連続で受賞しているジェイテクトと矢崎総業の研究開発担当役員が参加し、特許戦略の方向性を説明した。

表彰されるジェイテクトの林田一徳氏 表彰されるジェイテクトの林田一徳氏

 ジェイテクトは光洋精工と豊田工機が2006年に合併して誕生した企業だ。世界シェアトップの電動ステアリングをはじめ、軸受や工作機械などを展開している。特許の権利保有件数は2016年末時点で7000件強で、そのうち半数弱が日本、残りが米国、ドイツ、フランス、中国となっている。2016年に登録した特許の構成は、主力事業のステアリング関連が44%、駆動システム関連が19%、軸受関連が21%、工作機械関連が12%だった。ジェイテクト 研究開発本部長 執行役員の林田一徳氏は「当社のグローバル展開の状況や、各事業の規模と同期した特許取得となっている」と語る。

 また特許出願を行う際には、研究開発ステップではアイデア⇒基本⇒周辺、製品開発ステップでは基本⇒周辺⇒防衛という流れで戦略的に進めているとした。さらに「研究開発から製品開発まで10カ所の『P&A(Patent & Agreement)ゲート』を設けて、特許の質を高められるようにしている」(林田氏)という。

表彰される矢崎総業の神田政博氏 表彰される矢崎総業の神田政博氏

 自動車用ワイヤハーネスで世界トップクラスのシェアを持つ矢崎総業をはじめとする矢崎グループは、「世界と共にある企業」「社会から必要とされる企業」をスローガンに事業を展開している。特許の国際出願は、例えば2013年であれば約1300件出願しており、出願国割合は中国が34%、米国が20%、欧州が15%などとなっている。また、各国に生産拠点を展開していることもあり、2010〜2014年にわたって32カ国で製造技術特許を出願している。

 矢崎総業 常務執行役員 技術開発室長 神田政博氏は「グローバルの知財戦略は2010年に策定した。その後1年半〜2年に1回見直しながら推進している」と説明する。特許の国際出願では、開発工程ごとに適切な形態で出願国を選定している。「企画・構想」ではシステム技術の出願、「要素開発」ではコア技術の出願、「商品開発」では周辺技術出願と顧客別商品出願、「車両軸開発」では製品の出願、量産試作・量産では改善・改良や技術の保護を目的とした出願などとなっている。

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