かゆみを標的としたアトピー性皮膚炎の新しい治療戦略医療技術ニュース

京都大学は、アトピー性皮膚炎に対する治療薬として開発中の、抗IL-31受容体ヒト化モノクローナル抗体「nemolizumab」に関して国際共同治験を行い、かゆみに対する有効性を確認したと発表した。

» 2017年03月24日 15時00分 公開
[MONOist]

 京都大学は2017年3月3日、アトピー性皮膚炎に対する治療薬として開発中の、抗IL-31受容体ヒト化モノクローナル抗体「nemolizumab」に関して国際共同治験を行い、臨床症状やかゆみに対する抗IL−31抗体の有効性を確認したと発表した。

 同研究は、同大学医学研究科の椛島健治教授らの研究グループが、九州大学、東京逓信病院、ドイツ、アメリカ、イギリス、ポーランドの研究機関と共同で行ったもので、成果は同月2日、米科学誌「The New England Journal of Medicine(NEJM)」の電子版に掲載された。

 アトピー性皮膚炎患者におけるかゆみの発生には、インターロイキン-31(IL-31)がIL-31受容体を介して関与していることが報告されている。ヒト化モノクローナル抗体であるnemolizumabは、IL-31と結合する受容体IL-31RAのみを標的とし、IL-31とIL-31RAとの結合を阻害することで薬効を発揮する。これは、2015年に臨床第1相試験の結果として報告されている。

 第2相試験となる今回の国際共同治験では、国内外の、軟膏などでは十分な治療効果が得られない中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者264人を対象にした。対象を約50人ずつ、nemolizumabを4週ごとに投与する3グループ(0.1mg、0.5mg、2.0mg/kg)と、8週ごとに2.0mg/kgを投与するグループ、4週ごとにプラセボを投与するグループの5群に割りふり、薬剤/プラセボを12週間に渡って皮下投与した。

 その結果、主要評価項目である12週時の「そう痒VAS(visual analogue scale)変化率」において、4週ごと投与のnemolizumab群では、−43.7%(0.1mg)、−59.8%(0.5mg)、−63.1%(2.0mg)とそれぞれ改善が確認でき、プラセボ群の−20.9%に対し有意な改善効果があった。その他の項目も含め、抗IL-31抗体の臨床症状やかゆみに対する有効性が確認され、重篤な副作用も見られなかった。

 また、アトピー性皮膚炎の患者は、かゆみのために寝付くまで時間がかかり、夜中にかゆくて目が覚めてしまうことから、睡眠の質と量の変化を計測するアクチノグラフを用いて患者の睡眠についても検証した。その結果、nemolizumab投与1週間後には、床に就いてから入眠までの時間がプラセボに比べて15分程度早くなり、安眠時間も約20分増加した。また、投与3週間後には安眠時間がプラセボに比べ40〜50分長くなることも確認された。

 nemolizumabがかゆみを抑制することが確認されたことにより、アトピー性皮膚炎によって引き起こされるかゆみに、IL-31が重要な役割を果たしていることが示された。今後、IL-31の制御が、アトピー性皮膚炎の新たな治療手段や生活の質(QOL)向上の一助となる可能性が期待される。

 アトピー性皮膚炎は、慢性的に回復と悪化を繰り返し、患者とその家族のQOLに悪影響を与える。また、かけばかくほどかゆくなるという悪循環も知られているが、従来の治療法ではアトピー性皮膚炎のかゆみを有効に抑えることは困難だった。

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