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» 2017年05月22日 10時00分 UPDATE

産業用VRカレイドスコープ(3):日本語入力とPCリテラシーの低さが生む、海外製VRソフトの障壁 (1/2)

本連載では産業全体のVRの動向や将来展望について深堀りして解説していきます。今回は、海外製の産業用VRソフトと、それを実際に日本で利用しようとする場合の課題点について説明します。

[早稲田治慶/プロノハーツ,MONOist]

 製造業VRエバンジェリストの早稲田です。前回は、3D CAD用のVRシステムにおける、「事前変換方式」と「変換不要方式」について説明しました。第3回の今回は、海外製の産業用VRソフトと、それを実際に日本で利用しようとする場合の課題点について紹介します。

意外と長い歴史のある海外製産業用VR

 実は、HMDを装着するタイプ以外も含め、産業用VRソフトウェアの歴史は結構長いです。壁一面のプロジェクタースクリーンを四方や床面に配するCAVE型のVRシステムは、1990年代から存在し続けていました。

 ただし、数年前までは3D表示ハードウェアの多数接続で実現できる能力の限界による制約が厳しく、そのVRシステムに合わせた規模のCADデータを作る必要がありました。CADデータをVRで検証するというより、VR検証用のCADデータを作るという使い方です。

 従来の有名な海外製VRシステムとしては、フランスTechVizの「TechViz XL」や「WorldViz」などがあります。TechViz XLは数年前に建設機械メーカーのコマツが1億円規模の額を投資してシステム導入したことが話題になっていました。

 また、産業用VRという枠とは少々異なりますが、Bohemia Interactive Simulations(BISim)の「Virtual Battlespace」シリーズという訓練用の軍事シミュレーターも、過去のさまざまな高価格のVR表示システムに対応してきました。

 これらのシステムは数十万円クラスのHMDと、Viconなど数百万円クラスの外部ポジショントラッカーとの組み合わせを前提とするハイエンドシステムでしたが、こぞってOculus RiftやHTC Viveといった安価なシステムへの対応を表明しています。

 他にも、解析結果アニメーションをVR表示できることをうたった「EnSight VR」など、さまざまな海外製VRソフトウェアが登場してきています。フランス以外に、アイルランドからもCADデータに対応するVRシステムが登場しています。

VR対応ノートPCでも動く海外製産業用VRシステム

 海外製VRシステムは日本とオフィスの居住環境が異なることあり、長らく部屋に作り込むCAVE型システム中心で、価格も大掛かりなハードウェアに合わせた(要は、売れる数が少ないことを想定した)、相応の価格でしたが、コストパフォーマンスが高く、VR対応ノートPCでも動くシステムとして、MiddleVRからOculus Rift、HTC Vive対応のImproov3が登場しました。

 MiddleVRの特徴は、ゲームエンジンのUnityでVRを実現するミドルウェアの提供を、Oculus Riftが登場する以前から行っていたことです。Improove3も要求するシステム構成に応じて、Oculus RiftやHTC Vive以外の従来型ハイエンドHMDやCAVE型システムとも接続できるコンフィギュレーションが多数用意されています。

 Improov3はCADデータのツリー構造表示、干渉チェックにも対応し、価格グレードによってはハイエンドCADであるCATIAのCADデータを、中間形式への変換なしでそのまま読み込むことが可能です。その機能は、数千、数万のアセンブリーのハイエンドCADデータファイル資産を所有する大企業からの根強い要望でもありました。

実物確認の代用を目指して動き始めた産業用VR

 VR関連の製品や社名に「Viz」と付くものが多いことから分かるように、これらはかつて、VRというよりはビジュアライゼーション(可視化)の仕組みとして位置付けられており、必ずしもリアリティーを要求されていたものではありませんでした。そのため、「実物と見間違えるようなレンダリングCG」ではなく、あくまで「CAD画面内のモデルのスクリーンへの実物大表示」が主眼であって、それが3D表示能力上の限界でもありました。

 2016年くらいから、大手3D CADベンダーが自社ソリューションエコシステムにVRシステムを囲い込もうとする動きが目立ち始めています。Autodesk、PTCともに、自社CAD製品専用のVRシステムを提唱し始めており、SolidWorksもアドオンとしてCADのウィンドウ内で動作するVRシステム製品を発表しています。

 従来はテレビCM用のプロモーションビデオ素材として何日間もかけて計算していたようなレンダリングCGのようなレベルの表示を、リアルタイムのVRとして動作させるという、Autodeskの「VRED」のようなソリューションが登場しています。

 かつて自動車メーカーでは、何週間もかけて世界各国の市場へと新発売の実車を輸送して、現地で外観やインテリア確認などの顧客体験を提供してきました。現在のアウディではそれをVRを用いて先行して仮想的に行う試みを始めています。今、このようなことが実現できる背景として、非常にリアリティーのあるCGのリアルタイムVR表示が可能なゲームエンジンの登場などソフトウェアの性能が加速的に進歩したことが挙げられます。

海外製産業用VRシステムを日本で使う時の障壁

 魅力的な製品が多数出てきた海外製産業用VR製品を日本で使おうと思った時、次のような障壁が立ちはだかります。

  • 画面表示
  • マニュアルが英語
  • サポート習慣の違い
  • 英語OSでは起きず日本語OSでだけ起きるエラー
  • 半角カナとシフトJISが引き起こすエラー

 海外のソフトウェアでは、数万ドルの高価なソフトウェアであっても、ソフトウェアメーカーが用意したユーザーフォーラム(掲示板のようなもの)にユーザーが書き込みをして、メーカーもそこに書き込みをして議論する方式が主流です。

 フォーラムの書き込みは全てのユーザーに丸見えなので、まずは似たような不具合例がないかを探してユーザー自身が自己解決を試みることが前提となります。全てのスレッドを見もせず、よくある不具合を書き込むと、あからさまに嫌がられ、「投稿No.*と同じ問題ですので、そちらを見てください」と流されます。

 往復航空券の費用を考えずに海外のメーカー社員を平気で日本の会社に来させようとしたり、日本語での電話やFAXでのサポートを要求するような、日本独特な顧客の態度は全く通用しないのです。

 そのため、通常は日本の会社が日本代理店になり、日本のユーザーのメールや電話での質問内容を翻訳してユーザーフォーラムに書き込んで、メーカーからの英語回答を、さらに日本語に翻訳してメーカーに伝えます。日本語圏独自の要因による顧客からの不具合修正要望は基本的に受理されません。

 半角カナとシフトJISの問題は根が深いものです。そもそも日本のCADユーザーはCADのフィーチャー名やファイル名に「カナ」「漢字」を打ち込んでいるという自覚しかありません。それが半角なのか全角なのか、漢字がシフトJISなのかユニコード(UTF-8)なのか、全く意識していません。そのため、日本の代理店から日本のユーザー企業に連絡しても、CAD以前の、PCリテラシーの低さから、「CADのフィーチャ名を、UTF-8を用いて漢字で入力する」ということに対応できません。それに、過去数千・数万のアセンブリーのCADデータ資産のフィーチャー名やファイル名全てを手作業でUTF-8で付け直すというのは、実作業的にも無理があります。故に、半角カナやシフトJISからUTF-8に自動リネームして再保存するような仕組みが、メジャーなCADベンダー各社からCAD本体にビルトインされた形で登場するまで解決しない問題といえるでしょう。

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