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» 2017年06月14日 11時00分 UPDATE

IPA/SEC所長対談:新たな時代を担う組込みシステムの技術者に求められるものとは:組込み適塾 塾長 井上克郎×SEC所長松本隆明(前編) (1/3)

情報処理推進機構のソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)所長を務める松本隆明氏が、ソフトウェア分野のキーパーソンと対談する「SEC journal」の「所長対談」。今回は、組込みシステム産業振興機構(ESIP)が推進する「組込み適塾」の塾長で、大阪大学大学院教授の井上克郎氏に、人材育成と組込み技術の未来についての考えを聞いた。

[MONOist]

本記事は、(独)情報処理推進機構 ソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)が発行する「SEC journal」46号(2016年9月発行)掲載の「所長対談」を転載しています(対談時期:2016年7月8日)。


 IoT、AI、ビッグデータの進展による第4 次産業革命の時代の中核を担うべき組込みシステム技術者の将来像について考える。組込みシステム産業振興機構(ESIP)が推進する「組込み適塾」は、関西を拠点として先進的な組込みシステム技術者の育成を目的として幅広い活動を行っている。その塾長であり、大阪大学 大学院の教授でもある井上氏に、人材育成と組込み技術の未来について考えを伺った。

組込み適塾で中堅クラスの技術者育成を

松本隆明氏(以下、松本) 近ごろ、IoTやAI、ビッグデータなどの技術が大幅に進展し、システムの開発は大きく変化しつつあります。ハードウェアとソフトウェアの垣根がなくなり、ひとかたまりにして考えていかなくてはいけない時代となってきました。今後は、ハードウェアとソフトウェアをつなぐハブとも言える組込み技術がますます重要な役割を果たすと思います。ESIPの組込み適塾塾長として業界の技術者育成をリードしている井上先生に、組込み技術者の将来像についてお伺いしたいと思います。まず、組込み適塾の取り組みについて紹介していただけますか。

井上克郎 井上 克郎(いのうえ かつろう)1979年 大阪大学基礎工学部情報工学科卒。1984年 同大大学院博士課程修了。同年同大・基礎工学部・助手。1984〜1986年 ハワイ大マノア校情報工学科・助教授。1991年大阪大学基礎工学部・助教授。1995年同学部・教授。2002年 大阪大学 大学院情報科学研究科 教授。博士(工学)。ソフトウェア工学の研究に従事。

井上克郎氏(以下、井上) 組込み適塾は、2008年に第1期がスタートし、今年で9期を迎えます。もともと関西の地場産業には、家電、電子機器、自動車などがあります。中でも、中小企業に活性化してもらうために力を入れるべきところを考え、組込み技術に焦点が当てられました。関西経済連合会が中心となって組込みシステムESIPを設立し、教育事業を進めよう、という運びになったのです。

 教育プログラムを考えていく上で、不足しているのは中堅クラスの技術者ではないかという意見が多くありました。会社の将来を引っ張っていける人材を育成する、そんな教育システムが不足していたのです。大企業なら十分な教育制度があるのかもしれませんが、関西の地場産業を担う中小企業には荷が重い。そこで、寄り集まって教育システムを作りましょう、と立ち上がったのです。

 産業界からのニーズが出発点で、大学がそれをお手伝いします。大学で行われる教育とは趣が異なり、会社の中ですぐに必要な人材を育成するためのカリキュラムです。

 企業と連携する強みは、“実際の現場で必要とされる人材”を真剣に考えられる点です。それを繰り返し検証していき、毎年カリキュラムを改善します。改良を重ね続け、今年は9回目を開講しています。コース数は当初に比べて3倍になり、最先端のIoTやセキュリティの分野も用意しています。わざわざテコ入れをしなくても、自律的に発展しており、関西の地場産業を発展させるという狙いに貢献できているだろうと自負しています。

松本 産業界のニーズに基づいている、ということは、産業界からの要望でカリキュラムなどを設定しているのでしょうか?

井上 部会で大まかな方針を決めて、ワーキンググループで細かく検討していきます。ワーキンググループでは前年の実績や受講生・講師アンケートを集計、綿密にチェックをして、今後新たに必要になりそうなテーマや先端技術などを見極めます。そこに、講師の評価を加味して、カリキュラムを決めています。

松本 中堅クラスの育成が主な目的になるのでしょうか。

井上 申し上げた通り、中堅のトップクラスで活躍できる人材を輩出するのが最初のスタートでした。途中から、ハンダ付けから教えるような初級講座もスタートしています。「実装エンジニアリングコース」が初級者向けで、次に「アーキテクチャ設計コース」があり、組込み適塾の中核を成しています。その上にある「アドバンストコース」はかなり上級の講座です。

 今年の組込み適塾の特徴としては、IoT技術やビジネスを教える講座が増えています。今や組込みシステムはボードを設計してセンサやアクチュエーターを付けるだけでなく、IoTでつながる先の機器など、システム全体を考える必要があります。そのために欠かせないネットワークやセキュリティはもちろん、ビジネスデザインなどを教える講座を開設しています。

松本 「ビジネスデザイン」というと、幅が広いのではないでしょうか。その場合、組込み技術者だけでなく、ITシステムのデザインや全体のアーキテクチャを考えられるような人材も対象にするのですか。

井上 対象者を別に設定するだけでなく、組込み技術からスタートした人がビジネスデザインも扱えるようになって欲しいと考えています。そこに特化するのは難しいかもしれませんが、技術者が「組込みのことだけしか考えていない」という状態は避けていただきたいのです。

松本 そうですね。ビジネスのセンスを持った上で開発していくことが、これからは必要になるでしょう。

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