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» 2017年06月21日 11時00分 UPDATE

IPA/SEC所長対談:新たな時代を担う組込みシステムの技術者に求められるものとは:組込み適塾 塾長 井上克郎×SEC所長松本隆明(後編) (1/4)

情報処理推進機構のソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)所長を務める松本隆明氏が、ソフトウェア分野のキーパーソンと対談する「SEC journal」の「所長対談」。前編に続き、組込みシステム産業振興機構(ESIP)が推進する「組込み適塾」の塾長で、大阪大学大学院教授の井上克郎氏に、人材育成と組込み技術の未来についての考えを聞いた。

[MONOist]

本記事は、(独)情報処理推進機構 ソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)が発行する「SEC journal」46号(2016年9月発行)掲載の「所長対談」を転載しています(対談時期:2016年7月8日)。


⇒前編はこちら

入社直後からベテラン技術者まで、キャリアパスを明解にして幅広く対応

松本隆明氏(以下、松本) 受講生には、入社何年目くらいの方が多いのでしょうか?

井上克郎氏(以下、井上) 入社1年目の人もいるし、20年選手もいます。メインの層は5〜10年くらいでしょうか。初級コースは1〜5年目、中級コースは5〜10年、一番上のアドバンストコースは7〜20年くらいが多いと思います。5年以上のベテランでも、自動車なら自動車しか見てきていません。ほかの受講生と交流してほかの業界のことも分かり、充実感を得ていただけていると感じます。

 ベテランの受講生が相手だと、講師もなかなか大変です。経験が豊富ですから、いいかげんなことを言ってしまうとやり込められてしまいます。

組込み適塾の塾長で大阪大学大学院教授の井上克郎氏(左)とIPA/SEC所長の松本隆明氏(右) 組込み適塾の塾長で大阪大学大学院教授の井上克郎氏(左)とIPA/SEC所長の松本隆明氏(右)

松本 生徒のほうがむしろ詳しいということもあるかもしれませんね。実経験で身に付けた技術がありますから。

井上 そうなんです。スタート当初は中級程度の人たちを上に引っ張り上げるのをメインの狙いとしていたのですが、今は初級コースの人たちを真ん中くらいに引き上げたいという狙いもあります。ドメインごとにテスト関係、マネジメント関係などの講座も入れており、内容はIPA提唱の組込みスキル標準「ETSS」に準拠しています。

松本 キャリアパスが明解になっているほうが、受講生もやりやすいと思います。自分でどういうスキルを身に付ければ良いのか分かりますから。

井上 企業の方は、キャリアパスを大事にしているので、そこからのスタートでした。大学はこういった発想ではないのです。

松本 企業の中でも、CDP(Career Development Program)をしっかりと描いているケースは多くありません。作ることの重要性は認識されてはいますが、どうしても現場重視で個別にならざるを得ないためなかなか難しいようです。

井上 現場の人たちから見ると「きれいごと」と思われがちですが、各社の「きれいごと」を集めているので、組込み適塾の考えとして説明しやすい。良い道具になっていると思います。

松本 講義は大阪中心に行われているのでしょうか。

井上 大阪だけでなく、昨年は名古屋でも実施しました。今年は神奈川でも開催します。色々な場所で遠隔地展開していく予定です。

松本 組込みには地域性があるような気がしますね。「名古屋は自動車」など……。大阪は家電が多いですか?

井上 関西は、家電も多数ありますが、受講生の従事している業務を見る限り自動車を扱う企業も増えてきました。昨今は自動走行などの開発が盛んになっているので、これは全国的な流れなのかもしれません。

松本 今は自動車が日本の産業を引っ張っていると言えるのかもしれません。しかし、自動車も、セキュリティやIoTのことを考えなくてはいけない時代です。ハッキングで外部からコントロールされてしまったという事例もありました。従来、組込みシステムは単体で動くため、セキュリティの心配はありませんでした。ところが様々なものがつながるようになり、エンタープライズ系独自だった技術も網羅していかなくてはなりません。

井上 様々なつながりが出てきて、便利になった代わりに危険にさらすことにもなっていますね。エンジニアとしても幅広い知識が必要です。特にセキュリティの場合には、たくさんの知識を身に付ける必要があります。ひとことに「セキュリティ」と言っても、数学やプログラミング、ハードウェアなど広範囲で要求されます。一つの分野を勉強すれば良いわけではなく、様々なパターンを身に付けてもらいたいと思っています。

松本 IoTのブームで、ネットワーク系技術の重要度が増しているとお考えになりますか?

井上 そうですね。ネットワーク系技術は組込みシステムで特に重要視され始めています。ユーザとどのようにインタラクションするのか、という知識が重要です。究極的にはそれがビジネスモデルに行き着くのだと思います。すべて詳しく知るわけではなくても、エンジニア、ネットワーク、その先のユーザに関する知識をある程度は見聞きできるようにしておいていただきたいですね。あくまでも、組込み技術者としてコアの部分はボードとセンサでありながら、その先も分かるというレベルが理想的です。

松本 IoTになって様々なものがつながり、更にユーザまでつなげられるようになってくると、利用者品質を確保することも必要になってきます。いかにユーザが使いやすいようにするか、という視点が重要になりますが、こういう利用者品質の重要性をどうお考えになりますか?

井上 ボードの中で発想を固定すると、使いにくいものしかできません。技術者自身が、自ら色々なものを使ってたくさんの経験を積み、ボードの開発に活かしていってもらいたいですね。

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