イノベーションを起こしたければ失敗コストの安いFPGAを使え――ザイリンクス組み込み開発 インタビュー(2/2 ページ)

» 2017年09月22日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]
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イノベーションを生み出すにはより多くの失敗が必要

MONOist 重点領域と位置付ける車載や産業などは比較的開発サイクルが長い業界で、そういう商習慣が浸透している印象があります。

ローガン氏 現状では、車載向けや産業向けも、海外企業と対抗するために開発サイクル短縮化に向けてFPGAを採用するようなケースも増えてきている。しかし、「海外企業に負けないために追従した」というレベルで、一歩先を行くというような発想は少なく、現状でもやや遅いという印象だ。

 例えば、先ほどの開発コストと開発スピードの話に深く関係するのが「イノベーションをどう生み出すのか」という点だ。今は世界中の企業が新たな革新をどう作り出すのかで頭を悩ませている。しかし、イノベーションは今までにないからイノベーションなのであって、そう簡単に生み出せるものではない。では、そのためにどういう意識で取り組みを考えるべきなのか。私は「より多くのチャレンジをして、より多くの失敗をする」ということが、イノベーションを生み出す解答だと考えている。そう考えると、もはや失敗できないような開発コストや開発期間になってしまったASICを使った製品開発は行えない。失敗しても挽回可能なコストや開発期間であるFPGAで柔軟に開発することがイノベーション創出にも大きな効果を発揮するといえる。従来以上にイノベーションが求められる状況になったからこそ、FPGAを求める動きも広がってきている。

MONOist FPGAは専門の設計技術者が限定され、開発の負担が大きく、ユーザーにとっては技術者の確保が大変だという声もあります。

ローガン氏 確かにFPGAとASICでは、開発手法が異なり技術者を確保できないという声は存在する。また、単体のデバイス価格を比べて、FPGAが高いという声なども多い。しかし価格の問題は、先ほどの開発サイクル全体で考えれば、トータルコストではFPGAの方が安くなる状況が生まれている。さらに、開発環境についても障壁を下げる取り組みを進めている。

 障壁を解消すべく、2015年にはプログラマブルSoC「Zynq」向けの開発環境「SDSoC」を発表。C/C++での開発を可能とした。さらに、2017年3月には機械学習ベースの画像認識アルゴリズムを組み込み機器で容易に活用するための開発環境「reVISIONスタック」なども発表。HDL(ハードウェア記述言語)などに直接触れなくても、ツール頼みで開発が進められる環境を整備しつつある。これらの整備を進めることで「FPGAが使いたくても使えない」という環境を低減していくことが重要だと考えている。

photo 開発環境の障壁を低減(クリックで拡大)出典:ザイリンクス

エッジコンピューティングが追い風に

MONOist 車載向けでは採用が多くなってきている印象がありますが、産業向けでの浸透度についてはどのように考えていますか。

ローガン氏 IoTなどによりエッジコンピューティングが広がってきていることが追い風となっている。エッジ領域でAI機能などを搭載し情報の選別などを行うケースだ。AIには「学習」と「推論」2つの領域がある。「学習」は、大量の学習データをコンピュータに見せるもの。膨大なデータで何度も処理を繰り返すもので、これはクラウド上で行うのが一般的である。一方で、この「学習」で得た「学習済みモデル」を活用し、各現場で判断をするのが「推論」である。当社が取り組むのは「学習」ではなく「推論」であり、この「推論」の領域であればFPGAが貢献可能である。

 現状でAI向けのデバイスというとGPUが注目されているが、GPUでは消費電力が膨大になりすぎて、量産してあらゆるエッジデバイスに搭載するというようなことは難しい。FPGAは消費電力が低いためさまざまなエッジデバイスに搭載可能である。自動運転車などの実証段階ではGPUを使い、量産段階ではFPGAに置き換えるというような使い方が現実的なのではないか。特に現状ではIoTといっても全てをクラウドに預けるのではなくエッジ側である程度の処理を行うという流れが一般的となりつつあり、そういう意味ではFPGAには大きなチャンスが来ている。

MONOist 車載向けの動向はいかがですか。

ローガン氏 基本的には車載向けではさまざまな製品分野で採用が進んでいる。ライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)や各種レーダー、ステレオカメラ、サラウンドビューカメラ、ドライバーモーションセンサー(DMS)など数多くの製品領域で採用が進んでいる。またセンサー情報を融合する「センサーフュージョン」などにもFPGAは用いられている。

 自動車の中では、先進運転支援システム(ADAS)、インフォテインメント、自動運転などの大きな動きがあるが、FPGAはこのどの領域にも採用が広がっている。完全自動運転が実用化されるまではまだ15年くらいはかかると見ており、普及が進むのは2030年以降になると予測する。基本的に動きが早いのは欧州の自動車メーカーだ。日本の自動車メーカーも進んではいるが、欧州に比べると判断や精査のスピードが遅いように感じる。

 面白いのが、もともと民生が強かった電機業界の動きだ。電機業界ではテレビなどの民生機器は既に国際的な競争力を失い、多くが苦しい状況に陥っている。結果としてB2Bへの取り組みを強化し、車載向けなどにも多くの電機業界が参入している。こうした電機メーカーなどは、新しい技術への反応が非常に早く、採用なども思い切った取り組みをやる点だ。過去にスピード感で負けて競争力を失った反省などもあるのかもしれない。こうした先進的な電機メーカーと一緒に自動車メーカーに提案する機会も多く、民生での経験が車載向けでも新たな変化に対する取り組みとして再び生かされているというのは興味深い。

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