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» 2017年09月27日 06時00分 公開

SIPシンポジウム 2017:エンジン熱効率50%が見えてきたSIP、プロジェクト終了後の産官学連携は?

内閣府が「SIPシンポジウム 2017」を東京都内で開催した。実施期間が残り1年半となった中で「革新的燃焼技術」の現状をまとめた。

[齊藤由希,MONOist]

 内閣府は2017年9月26日、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の成果などを発表する「SIPシンポジウム 2017」を東京都内で開催した。

 2014年度にスタートしたSIPの取り組みは、研究課題ごとに基礎研究から実用化までを推し進めるプログラムディレクターを置き、省庁の枠や企業同士の垣根を越えて技術革新を実現することが目的だった。「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」を除いて2018年度で実施期間の最終年度を迎えるため、残りの期間は1年半となった。

日の丸ソフトウェアで50%達成へ

熱効率50%はシミュレーションも含めて達成が見えてきた(クリックして拡大) 出典:内閣府

 SIPが掲げる研究課題の1つである「革新的燃焼技術」では、内燃機関の熱効率を2020年に50%まで向上させるとともに、持続可能な産学連携体制の構築を目標に掲げている。

 プログラムディレクターを務める杉山雅則氏(トヨタ自動車 パワートレーンカンパニー 先行技術開発担当で東富士研究所 所長)は「フランスや英国がエンジン車の販売を規制する方針だが、電気自動車やプラグインハイブリッド車がアグレッシブに普及すると見積もっても、2040年時点で7割以上のクルマが内燃機関を搭載する見通しだ。電動化は確実に進んでいるが、内燃機関の効率向上は変わらず重要な課題だ」と語った。

 現在、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンともに年度ごとの目標を実機もしくはシミュレーションで順調に達成しており、2016年度にはガソリンエンジンで44.4%、ディーゼルエンジンで46.4%に達したという。2017年度の熱効率目標はガソリンエンジンで46.1%、ディーゼルエンジンで48.7%だ。50%に向けて、大学発の新技術を組み合わせ、モデル化や実機検証を進めていく。

 熱効率の目標達成に向けてはシミュレーション技術が不可欠となる。SIPは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の流動解析コアソフトに大学発のエンジンの燃焼に関するサブモデルを融合し、燃焼工程の一連の解析や検証が可能な“日の丸ソフトウェア”「HINOCA(ヒノカ)」の開発を進めている。

 サブモデルは大学ごとの得意分野を生かし、大学間の学学連携も図りながら開発を進めてきたものだ。例えば早稲田大学は火炎の広がり方、広島大学は壁面の熱損失のモデルを担当した。シミュレーションと実際の測定を繰り返す中で、必要なセンサーも開発した。

ヒノカはJAXAの流動解析ソフトと大学発の燃焼や熱に関するモデルの融合(左)。各大学がモデル開発を担当した(右)(クリックして拡大) 出典:内閣府

 ヒノカは、航空分野など幅広い分野の研究者が集まり、自動車業界のニーズを踏まえて有用性を確認してきた。現在はコアソフトの計算時間や前準備に要する時間が大幅に短縮された段階だ。スーパーコンピュータでの計算処理が必要となるため、企業のリソースでも動作できるようにする。さらに、計算速度を向上しながら精度検証も進めていき、大学発の新しい知見を反映したサブモデルの進化にも取り組む。「世界トップレベルのソフトウェア」(杉山氏)として実用化を目指している。

 ヒノカの検証支援は自動車用内燃機関技術研究組合(AICE:Research Association of Automobile Internal Combustion Engines、アイス)が支援。ポート定常流や筒内流れ、噴霧、混合気分布、燃焼など分野ごとに再現性を確かめていく。ヒノカの計算結果と実機の測定値を比較したところ、その差は±1%程度で実用に足る精度が見えてきたという。「タンブル比の旋回流の強さは、定性的な傾向は実機とシミュレーションが一致した。しかし、絶対値としての差があるため改善を進めている」(杉山氏)。

ヒノカの開発スケジュール(左)。再現性確認の検証も進めている(右)(クリックして拡大) 出典:内閣府
油膜圧力センサーをつけたピストン(左)とピストンピン(右)(クリックして拡大)
軸受には薄膜圧力センサーや静電容量式距離センサーを装着(左)。混合気形成の自由度を向上するデュアルインジェクターシステム(右)(クリックして拡大)

 SIP終了後はヒノカを産学で活用していき、自動車以外にも広めていきたい考えだ。

企業を束ねるAICE、大学をまとめるのは

 杉山氏はSIPの成果について、「大学の資金不足解消や新分野の研究者の参入促進、学学連携のチームで研究する体制ができたこと。企業が大学の研究を手伝うというのも大きな変化だ」と語る。SIPのスタートとAICE発足はいずれも2014年だった。

 それ以前は「企業は各社ともバラバラ。大学は実用面の情報と資金が不足し、出口のない基礎研究に終始してしまい、産と学で距離が生まれていた」(杉山氏)。SIPの前にAICEが立ち上がり、産産連携が始まった。SIPがスタートした時には「AICEから『協調領域の技術開発として、基礎科学から解決したい』と要求した」(杉山氏)という。

産産連携、学学連携を束ねる組織がそれぞれ設置された。SIP終了後も引き続き連携していく(クリックして拡大) 出典:内閣府

 “産産学学”連携をSIPの終了後も続けるため、学の連合体として内燃機関産学官連携コンソーシアムを置く。事務局は産業技術総合研究所(産総研)が務める。AICEから内燃機関産学官連携コンソーシアムへ研究委託やニーズの提示、人材提供する一方で、同コンソーシアムからのシーズや研究成果の紹介も行う。同コンソーシアムは国や省庁に対してAICEのニーズに基づいた研究を提案していく。学で必要になる研究費を産官から得られることで、最新の基礎・応用研究を進める。

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