特集
» 2017年10月11日 13時00分 公開

MONOist10周年特別寄稿:ママさん設計者はこう思う「モノづくり界の今までの10年、これからの10年」 (1/2)

MONOist開設10周年に合わせて、MONOistで記事を執筆していただいている方々からの特別寄稿を掲載しています。今回は「ママさん設計者」シリーズを執筆していただいているMateriai工房テクノフレキスの機械設計者、藤崎淳子氏による寄稿です。

[藤崎 淳子/Materiai工房テクノフレキス,MONOist]

 まずはMONOist様、誕生10周年おめでとうございます!

 この10年間はそれ以前の10年間よりも倍速でモノづくり界を駆け抜けて行ったように思います。これは決して自分が年を取って時間の流れを早く感じるようになった……というだけではなく、実際に変化は加速していてその中でモノづくりの形態も変わってきました。振り返ると、今から10年前にあたる2007年は、さまざまな産業にとってのターニングポイントだったのだなと思うフシがあります。これをモノづくり界に限って見れば、ここ10年間における変化を象徴するキーワードは「メイカーズ・ムーブメント」。そしてこの先の10年で予測されるキーワードは「コラボレーション」と「アイデンティティー」ではないかなとにらんでいます。

「才能の無駄づかい」「プロの犯行」――インターネット普及の影響が大きかったDIY

 2007年といえば、アメリカでAppleのスマートフォン「iPhone」が誕生した年であります。また日本では、DTM用音声合成ソフト(通称「ボーカロイド」)の「初音ミク」が誕生しました。個人的に印象に残る当時の革命的新製品はこの2つなのですが、どちらも誕生したての頃のメディアの扱いは、さほど好意的なものではなかった覚えがあります。こういう反応は昔からよくあることで、新しい技術の黎明を遠くから眺めつつも変化を快く思わないのか、意外なモノが登場すると、大抵、疑心を抱きながら様子見するものです。

 しかしその時点で、以前の社会とは情報伝達環境が大きく変わっていました。インターネット接続網がほぼ全国に行き渡り、全世帯の半数以上にはブロードバンドが普及し、個人が瞬時に手に入れられる情報の量とスピードがすさまじく増えていたのです。メディアが取り上げなくても、ユーザーが実際の商品やサービスを利用して評価してインターネットで情報を発信することが宣伝効果を出しはじめていました。iPhoneが日本に入ってきたのは翌2008年のことですが、これが売れた理由は、「ポケットに入れてどこにでも持ち歩けて、思い立ったときにWebにアクセスできる利便性」が一番ではないでしょうか。おかげで情報発信も「現場から生中継」レベルにまでなりました。「ユーチューバー」と呼ばれる方々の登場はもっと後ですが、土台はその時既にあったのです。

 このようにインターネットによる情報拡散は、雑誌やチラシの口コミよりはるかにスピーディーで浸透性が高いですから、「初音ミク」は2007年8月の発売以降、販売元や関係者も驚く勢いでたちまちヒット商品となりました。この売り上げを支えたのが、「ボカロP」と呼ばれるアマチュアのDTM(デスクトップ・ミュージック)クリエーターたちでした。彼らを巡る状況と同様な流れが、DIYの世界でも起こっていきます。

 ボカロPたちは、初音ミクを使ったオリジナル音源を、動画投稿サイトで次々に公開しました。すると、その作品を聴いて感化されたアマチュアのCGクリエーターたちが「この楽曲に合うものを描いてみたので使ってください」と挿絵やアニメーションを提供し、アマチュア創作家のコラボレーションによる、オリジナル楽曲のPVがどんどん生み出されていきました。波紋はそこにとどまらず、立派な映像音楽作品となったそれらの作品に感動した一般の視聴者が、それをこぞってシェアすることで作品は海外にまで広まっていったのです。もともと無名のアマチュアクリエーターたちの作品が、一般人の口コミやシェアの力だけで世界へ広がり評価されるということは、そもそも作品のクオリティーが高くなければ成立しません。

 ボカロPの中には、高評価を受けてプロの音楽家としてデビューされた方も多くいます。米津玄帥氏はまさにその筋を代表する音楽家です。彼らは初音ミクを使って自分の感性と技術を「音楽作品」という有形物に作りあげ、インターネットを使って提供し大衆から評価され、やがて職業とするに至ったわけですから、「単なるDTMソフト」に過ぎなかろうが、初音ミクは既存の音楽産業に革命をもたらしたと言ってよいのです。

 動画投稿サイトの「ニコニコ技術部」「作ってみたシリーズ」と呼ばれるジャンルでは、「才能の無駄づかい」とか「プロの犯行」といったタグを付けられた凝ったメカニックな創作物が並び、アマチュアとプロの境界がない1つのフィールドで技術を競い合う様子が数多く見られるようになりました。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.