ロボットがたどる生物の進化の道、カギは視覚とコミュニケーション協働ロボット(1/2 ページ)

2020年に開催される日本発のロボットチャレンジ「World Robot Summit」に向け、記念シンポジウムが都内で開催された。WRSの実行委員会諮問会議 委員であるトヨタリサーチインスティテュート 最高経営責任者(CEO)のギル・プラット氏が登壇し「ロボティクスの未来」をテーマに、ロボットと人との関係性の変化などについて講演した。

» 2017年10月16日 10時00分 公開
[長町基MONOist]

 経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、ロボットの社会実装と研究開発を加速させることを目的として「World Robot Summit(WRS)」の開催を計画※)。2018年にプレ大会(東京)、2020年に本大会(愛知、福島)を予定する。

※)関連記事:2020年にロボットの国際大会を日本で開催、3分野6種目で実施

 このWRSプレ大会を1年後に控えて、東京都内でWRSのメッセージである「Robotics for Happiness」をテーマに、シンポジウムが開催された。本稿では、この中で登壇した、WRSの実行委員会諮問会議 委員であるトヨタリサーチインスティテュート 最高経営責任者(CEO)のギル・プラット(Gill Pratt)氏の講演「Lessons in Human-Robot Empathy from the DARPA Robotics Challenge」の内容をお伝えする。

 プラット氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)で電気工学・コンピュータサイエンスの博士号を取得後、MITとオーリンカレッジで、准教授、教授として勤務した。1983年〜2005年には、3つのベンチャー企業を立ち上げるとともに、オーリンカレッジの設立に携わり、2010年〜2015年はDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)のプログラム・マネジャーとして、ロボットなどの複数のプログラムを指揮した。その内の1つが「DARPA Robotics Challenge」である。この取り組みを通じて「人と協調するロボット技術」の世界を切り開き、ロボットおよび人工知能研究において世界の研究者から注目された。

ロボットと人間の3つのタイプの感情移入

 30億年の生命体の進化の中で、恐竜の絶滅により哺乳類が繁栄するなど、1つの生命体の絶滅があるとそこに新しい生命が誕生するという歴史がある。そうした進化の過程で、生命体が生き延びる条件として「視覚」という機能が発達したことが大きなカギを握っていることが分かってきた。視覚を得たことで、捕食者から逃げることができたり、食料を探したり自由にできるようになった。この視覚機能によって動物は短期間で進化することができた。

photo WRSの実行委員会諮問会議 委員であるトヨタリサーチインスティテュート 最高経営責任者(CEO)のギル・プラット氏

 「同じ現象がロボティクスの世界でも起こっている」とプラット氏は述べる。ロボットが人間と同じように視覚を持つようになり、深層学習や機械学習によりコンピュータやロボットが世界を認識することができるようになった。「これがここ最近起こった大きな変革である」とプラット氏は強調する。

 また、人間は7万年前にコミュニケーション能力が加わり、これが大きく進化に影響をもたらした。これにより、個々で生きていた人間が社会を構築できるようになった。この進化はロボットの世界ではまだだが「近い将来起こる」とプラット氏は予測する。

 クラウドロボティクスでは、ロボットのインテリジェンスはどこに存在するかという議論がある。通常では、ロボットはボディーのうちコンピュータが入った部分が頭とされる。

 ただ地球上の全てのデータ量を合計すると数ゼタ(10の21乗)バイトの大きさになる。さらにコンピュータが扱う情報量は日々拡大している状況だ。これらがセルラー網やWi-Fiなどの安価な通信手段でコミュニケーションを行える状態にあるということだ。しかし、エネルギー面で考えるとロボット側で全てを処理すると効率が悪くなる。「エネルギー問題やソフトウェア更新の問題などを考えると、ロボットの頭はクラウドに置くべきだと考える」(プラット氏)としている。

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