この10年で3D CADを巡る言葉は移り変わり、これから10年も学び続けるMONOist10周年特別寄稿(2/3 ページ)

» 2017年10月25日 13時00分 公開

言葉は変わる?流行?「CAD/CAE編」

 10年前、「デザインCAE」という言葉を聞いたことがあります。今でいう「設計者CAE」につながる言葉です。構想設計や詳細設計の段階でのCAEの運用によって設計品質の向上を求めようといったものになります。3D CADベンダーの1つのソリューションとなるCAEを使用することで、設計とCAEの往復作業が容易になることが最大の利点になります。まずは、部品単体の構造解析を行うことを目標にし、「設計者の電卓替わり」とその導入のハードルを下げるために言われたこともあります。私自身も、部品単体の構造解析から始まり、アセンブリーの構造解析、熱伝導解析、熱流体解析を行ってきました。

 時には有限要素法や、非線形解析、熱流体解析についてもその理論を学んできました。しかし、10年間解析を経験した私のスキルはどこまで伸びたのか、不安にもなります。というのも先日、解析専任者が主体のカンファレンスに参加したのですが、その理論展開や「V&V(verification and validation:検証と妥当性確認)」については感服するばかりだったからです。もちろん解析専任者が行う解析は先行的な開発要素も多く、それだけ時間をかけることも可能な部分と、実験による評価を行うことが必須であることから、検証と妥当性確認が充実しているのですが、今日、設計者CAEといわれる解析を行う上でも学ぶことは多いと考えます。

 今日、CAEでは、「トポロジー(位相)最適化」や「マルチフィジックス」という言葉がよく聞かれるようになりました。これらの私の理解は以下のようになります。

  • トポロジー(位相)最適化:構造に制約を与えることで最適な形状を導き出す。例えば、変更不可能な面を設定することや、重量の低減率や、変位量の制限を与える中で、構造解析にある荷重や拘束条件を設定する。応力を求め、形状的に応力の問題がない部分に関しては形状変更を行う。この形状変更はパラメータではなく、メッシュレベルの変更を行うことができるため、これまでにない最適化された形状結果を得ることが可能。
  • マルチフィジックス:構造解析、熱伝導解析、磁場解析、熱流体解析といったような個々の解析だけではなく、その解析理論をつなげて連成解析を行うことができる。

 マルチフィジックスへの対応について言えば、実際の物理現象を考えれば、ごく当たり前のことかもしれません。事象はさまざまな要因によって成り立っているということをこれからはより意識しなければならないのでしょう。それだけツールが進化して使いやすくなったのだということになります。今後、解析専任者が使用しているツールが、もっと設計者CAEへ降りてくるのではと期待しています。

 トポロジー最適化への取り組みは、3Dプリンタの進化と普及に関係するものでしょう。

  • MBD(Model Based Development):日本語化すると「モデルベース開発」を指す。事前評価を入れた「モデル」を軸とした開発手法。1D CAEを用いたシミュレーションモデルを活用できる点が特徴。
  • 1D CAE:「1D」は機能設計を示す。この時点ではCADモデルはない。ここでは、原理や機能をブロック図で表した計算モデルを構成しシミュレーションを実施する。

 1D CAEは、「CADモデルがない」、すなわち「ジオメトリ(形)だけ」「寸法がない状態」での評価になります。「こんなものを開発したい」という時点に、いきなりCADモデルを作成してしまった後では、大きな手戻りを発生することがあります。1D CAEには、「設計の方向性を誤らずにプロセスを進められる」(手戻りの削減)という利点があるのだと考えますが、私にとっては未知の領域です。今後、設計開発の革新を求めるのであれば、まだまだ勉強が余地がある分野であるといえそうです。

 このように、開発設計に入る前の評価を行うような取り組みが始められています。この展開も3D CADがあったからこそ始まって、かつ3D CADにつながる仕組みです。3D CADは単なる道具ではなく、そのデータ活用も強化される傾向です。

 過去には優れた設計者が多くいたことでしょう。しかし今、開発設計スピードが早くなり、若い世代への技術継承も思うようにできていません。「技術者」より「技能者」が増えて、便利なツールを技能者が使いこなす時代になってきました。そう考えると、喜んでばかりはいられません。

言葉は変わる? 流行?「取り巻く環境編」

 約10年前は「ユビキタス(ubiquitous)」という言葉をよく聞きました。「ユビキタスコンピューティング」や「ユビキタスネットワーク」といったように、「いつでもどこでも誰でも、インターネット(コンピュータ)でつながっていること」を示していました。また、巨大で複雑なデータを指す「ビッグデータ」という言葉も聞きました。

 この2つの言葉ですが、今はあまり聞きません。しかし、いわゆるユビキタスの環境で、クラウドを経由して、ビッグデータを集め、その分析処理をAIによって行うという、「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」という言葉に展開しています。「Smart○○」や「Connect」も同じことでしょう。

 そのような中で3D CAD運用やデータ共有というものもクラウドとしての運用をよく聞くことになりました。

 拠点間のデータ共有やチーム設計、ソリューションの運用がクラウド上で行われる傾向にあります。3D CAD運用とは異なりますが、コンシューマー製品や製品設計というものも、IoTを意識したものに移り変わりそうです。これまでメカ機構だけ3D CADが使用されていたものが、例えば、基板設計を意識したり、ハーネス設計も意識したりしなければならないかもしれません。

 このようなメカ系とは異なる設計データを読み込む必要が生じることでしょう。少し前から「インダストリー4.0」という言葉も良く聞きました。「次の産業革命」とも言われていますが、簡単に言えば、「インターネットによって生産工場内外のモノとモノが連携することで、新しい価値を創造するもの」だと私は理解しているのですが、どうしてもモヤッとしてしまい理解できていません……。

 インダストリー4.0という言葉は聞こえてくる頻度が減ってきた気もするので、いずれはユビキタスやビッグデータのように聞かれなくなるのかもしれません。しかし、たとえ言葉としては聞こえなくなってきても、これらの活用自体は、着実に進み、普遍化に向かっています。

 このように10年前には意識することもなかった設計が普遍化していく可能性があり、推進者はそういった動きをウォッチしている必要があると思っています。

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