「実地訓練で人材育成」が裏目に、スバルが25万台リコールへ製造マネジメントニュース

SUBARU(スバル)は国内工場の完成検査に関する社内調査の結果について発表した。群馬製作所の本工場と矢島工場の合計3ラインにおいて、本来の規定とは異なる状況で完成検査が行われていた。

» 2017年10月30日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
スバルの吉永泰之氏

 SUBARU(スバル)は2017年10月27日、東京都内で会見を開き、国内工場の完成検査に関する社内調査の結果について発表した。

 日産自動車の完成検査不正を受けて国土交通省は、自動車メーカー各社に同様の事案がないか確認を要求。それに従ってスバルが社内調査を実施した結果、群馬製作所の本工場と矢島工場の合計3ラインにおいて、本来の規定とは異なる状況で完成検査が行われていた。

 スバルは国土交通省に対し「完成検査員が完成検査を行う」とする完成検査要領を届け出ている。一方で、完成検査要領に付属して定めた業務規定では「完成検査員で登用するには、完成検査ラインで一定期間の現場経験を積むことが条件」とした。

 そのため完成検査要領と業務規定が矛盾した状態になっており、登用前の作業員が完成検査に携わることも明文化されていなかった。スバル 代表取締役社長の吉永泰之氏は「人手不足を理由に資格を持たない作業員が完成検査を実施していたのではない」と述べた。2017年10月1日時点で完成検査員はスバル全体で245人、実地訓練のため資格なしで完成検査ラインに立っていたのは4人だった。

 同年10月2日に社内調査を開始し、その翌日の3日に事態を把握。10月4日には完成検査員でない作業員をラインから外した。10月5日時点で、国土交通省に社内の現状を報告済みだという。

 生産や販売の停止は予定していないが、10月30日に国土交通省に社内調査の結果を報告した上で、リコール実施の判断を仰ぐ。現時点でリコール対象となるのは25万5000台で、トヨタ自動車にOEM(相手先ブランドによる生産)供給している「86」も含まれる。リコール費用は50億円強を見込む。

スバルで完成検査員になるには

スバルの大崎篤氏

 スバルでは、完成検査員として登用する人材を、実務訓練を通して教育することを重視していた。まずは、現場管理者(係長)の認定を得られるまで、担当する検査工程に必要な教育と訓練を受けて要求される知識と技能を習得する。その後、監督者(班長)から指名を受けて初めて完成検査ラインに立つことができる。この段階ではまだ完成検査員としての登用は受けていない。

 班長から指名を受けた後は、班長の監視のもとで完成検査業務に従事する習熟期間となる。その期間は2級自動車整備士の資格保有者で2カ月、自動車整備の資格を持たない者は6カ月と設定している。「最初は班長やトレーナーがマンツーマンで教え、1人である程度できるようになると、巡回しながら完成検査ができているか監視する形になる。国家資格である自動車整備士の仕事に相当する作業なので、習熟期間を長く設けていた」(スバル 執行役員 品質保証本部長の大崎篤氏)。

 習熟期間を経て、社内の筆記試験で満点を獲得すると正式に完成検査員として登用される。「担当する完成検査には、ハンコを押すまで責任が伴うことを意識させる」(大崎氏)という目的で、完成検査員の氏名の印章を習熟期間中の作業員に貸与して押印させていた。印章の使い回しや、同じ印章が複数あったということではないとしている。習熟期間の作業員は平均的には8人で、多い時期でも17人だったという。

 大崎氏は「30年間、このカリキュラムで進めていた。完成検査員を育てる側の班長や係長もこうした仕組みの中で育ってきたので、規定の矛盾に気付かなかった」と説明。吉永氏も、「日産自動車の件を受けて、初めて自分たちが正しくできているか疑問を持った。それがなければ、気付くことなく進んでいたと思う」とコメントした。

 今後は、完成検査に求められる技能の習熟の在り方について見直しを進める。また、規定の内容の透明性を高め、現状に合わせた形に体系的に整備し直していく。

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