高速道路と同じITSインフラを常設したテストコース、逆走対策やV2Xの開発強化安全システム

OKIは埼玉県本庄市にある情報通信本庄工場の敷地内にITSテストコースを開設した。投資額は3億円で、実際の高速道路と同じITS関連のインフラをそろえた。新設したテストコースを活用し、車両や歩行者の検知、逆走防止といった運転支援技術や、位置情報を活用した新サービスの検証を行う。

» 2017年11月23日 09時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 OKIは2017年11月8日、埼玉県本庄市にある情報通信本庄工場の敷地内にITSテストコースを開設した。投資額は3億円で、実際の高速道路と同じITS関連のインフラをそろえた。新設したテストコースを活用し、車両や歩行者の検知、逆走防止といった運転支援技術や、位置情報を活用した新サービスの検証を行う。要望があれば他の企業にも開放する。

 これまでETC、VICSやETC2.0のインフラに携わってきたノウハウを活用し、インフラ協調型のサービスや機能の普及を後押しする。同社の次世代交通事業において2019年度に売上高250億円を目指す。

高速道路と同じインフラをそろえたテストコースを開設した(クリックして拡大)

対策が急務の「逆走」

新テストコースの模型。敷地を拡張せず、グラウンドや植樹の移動によってスペースを確保した(クリックして拡大)

 新設したテストコースは、全長約300mで、直線路が120m、周回路が180mとなっている。時速100km程度まで加速できるという。実際に高速道路などに設置されているETCのゲートやDSRCのアンテナの他、ETCの民間利用向けに使われているDSRCアンテナを備えている。

 テストコースでは、逆走検知とドライバーへの警告を行う設備も使うことができる。新東名高速道路で行われる逆走防止の実証実験と同様の設備だ。車両に搭載したETC/ETC2.0の車載機が発する電波の向きと時間の経過による電波の方向の変化から逆走を割り出す。

 高速道路での逆走は、通報されなかった事例を含めると年間1000件近く発生するといわれている。逆走防止に向けては、道路側の構造や標示の工夫だけでなく、インフラによって高速道路会社が逆走の発生を把握できるようにすることが必要になる。さらに、逆走中のドライバー本人や周囲のドライバーに注意喚起する車載情報機器や、逆走車両を強制的に停止させる仕組みの開発も官民連携で進められている。

テストコースでは逆走となる方向に向けたアンテナを用意している。赤色の丸で囲んだアンテナを使う(左)。逆走を検知すると道路の設備でドライバーに警告する(右)(クリックして拡大)
ETC/ETC2.0の車載機のアンテナ。高速道路の料金所と同じタイプ(左)。民間でのETC利用向けに機能をしぼった小型タイプ(右)(クリックして拡大)

 ITS関連のインフラではNECや三菱重工業、パナソニック、三菱電機などが競合に当たるが、常設の設備を利用できるのは珍しいという。安全に逆走の状況を作りだせる環境を、逆走防止に向けた具体的な技術検証に活用していく。

 高速道路での逆走検知と似た仕組みで、歩行者の位置と移動方向の検出を行う設備も備えている。V2Xを利用した協調型の運転支援では、見通しの悪い場所にいる歩行者の位置を検知し出会い頭の事故を防ぐことが期待されている。歩行者と車両が直接つながる歩車間通信は、周辺の環境次第で通信が干渉を受け、検知が難しくなる場合がある。そのため、歩車間通信の弱点をインフラを使って補うことを想定している。

歩行者の位置検知は、赤色の丸で囲んだ両端の2つのアンテナとカメラを使う(クリックして拡大)

 テストコース開設日のデモンストレーションでは、ETC車載機を身に付けた歩行者で位置検知を行ったが、技術的には電波の種類を問わず検知できるという。インフラ協調型の歩行者検知では次のようなことが課題となるようだ。「歩行者が近くにいればとにかく位置をドライバーに知らせる、というのでは、注意喚起の頻度が増えすぎてしまう。歩く軌跡を基に、注意が必要な歩行者の位置のみを知らせることが求められる」(OKIの説明員)。

インフラも車載機も売らない新サービス

 ITS関連のインフラでのOKIのシェアは、ETCで1割、ETC2.0やVICSで2〜3割だ。アンテナのような設備だけでなく、プローブ情報の処理にも関わっていることがOKIの強みであるという。国土交通省や警察庁、高速道路会社に納入するプローブ情報処理向けのサーバでは7〜8割のシェアを持つ。

 こうした強みを生かしたサービスの提供にも乗り出した。OKIは2017年11月8日、車両のプローブ情報を活用したITSサービス「LocoMobi 2.0」の販売を開始した。機械学習による渋滞予測など行政向けの道路管理システムで培ってきた技術を採用している。アンテナなどITS関連のインフラや、専用の車載機を導入しなくてもサービスを利用できるようにした。

 サービスの開発段階では、建設や物流の企業から協力を得て現場での車両の使われ方や課題を取り入れ、業種ごとのサービスを提供する。大成建設や丸紅が協力した。まずは建設業向けのサービスがスタートしており、2017年度に物流事業者向けのサービスも開始する計画だ。

 建設業向けのサービスは、資材運搬車両の到着時間の管理に焦点を当てた。資材運搬車両は、現場への到着が早すぎても遅すぎてもムダな待ち時間が発生する。早過ぎると現場に入れず近隣で待機する必要があり、遅くなると資材を運搬するクレーンの操業など後工程に影響を及ぼす。新サービスは資材運搬車両の遅れや到着時間を可視化し、作業工程のスケジュールを調整できるようにする。位置情報の収集は、専用のアプリをダウンロードしたスマートフォン端末で行う。

 「企業が1社で収集できるプローブ情報の量は“ビッグデータ”というには少ない。官が持つ情報量の多さに対応してきた実績は、民間向けの位置情報サービスに生きるだろう」(OKI 常務執行役員 情報通信事業本部長の坪井正志氏)

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