エッジコンピューティングの逆襲 特集

SCF2017に見る、オートメーションのエッジリッチ化とシンプル化SCF2017(1/2 ページ)

産業用オートメーションと計測技術の展示会「システムコントロールフェア(SCF)2017/計測展2017 TOKYO」では、さまざまなオートメーションの最新技術が示された。傾向として明確に見えてきたのが「エッジリッチ化」と「シンプル化」の動きである。

» 2017年12月22日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 産業用オートメーションと計測技術の展示会「システムコントロールフェア(SCF)2017/計測展2017 TOKYO」(2017年11月29日〜12月1日、東京ビッグサイト)では、さまざまなオートメーションの最新技術が示された。傾向として明確に見えてきたのが「エッジリッチ化」と「シンプル化」の動きである。

多くの出展が見られた“エッジのAI”

 SCF2017で大きな盛り上がりを見せたのが、エッジコンピューティング領域におけるAI(人工知能)関連技術の活用である。

 IoT(モノのインターネット)の活用とCPS(サイバーフィジカルシステム)の構築を考えた時に、以前はセンサーレベルのデバイスに通信機能を載せて、クラウドに一気にデータを収納する仕組みが考えられた。しかし、いざ現場に適用する場合、リアルタイム性が要求される場面では、通信を挟むクラウドでは遅延の問題が生まれる。さらに、全てのデータをクラウドに送るとすると、膨大な通信コストが発生する。苦労して取得したデータも意味のないものが多ければ、機械学習や深層学習などの技術では有効な知見を導き出すのは難しくなる。

 これらの点を解決するためにここ数年注目されているのが、エッジコンピューティングである。エッジコンピューティングは、クラウドとセンサー領域などの間に設置する。

photo ITシステムとFA領域の間に位置するエッジコンピューティング領域 出典:エッジクロスコンソーシアム

 センサーなどのデータを一時的に選別して簡易処理を行ってからクラウドやサーバに送り、さらにリアルタイム性が要求されるようなものに対しては、その場でフィードバックを返すような役割を担う。エッジ領域で変化に富むセンサーデータなどの判斷をリアルタイムに行うためには、AIが最適だ。AIの学習については、クラウド環境で行い、生成した推論アルゴリズムをエッジコンピューティングに実装し、実行する仕組みが明確化。SCF2017ではこうした仕組みに対応し、エッジコンピューティング層をAIなどで機能強化した「エッジリッチ」な機器群が数多く登場した。

三菱電機やオムロンなどが「エッジリッチ」を訴求

 三菱電機は、エッジコンピューティング層の機器群を強化。コンパクトで高効率学習が可能な独自AI(人工知能)技術「Maisart」を搭載したコントローラーなどの他、独自ブランドの産業用PC「MELPC」をアピールした。産業用PCは2018年春に投入を開始する。その他、データ分析・診断ソフトウェア「リアルタイムデータアナライザー」、SCADAソフトウェア「MC Works64 エッジコンピューティングエディション」なども用意。エッジ領域での情報分析や制御能力の強化に取り組んでいる。

 三菱電機 FAシステム事業本部 機器事業部長 三条寛和氏は「エッジコンピューティング層の強化が進むことでより実用的な価値を生み出せる」と述べている(※)

(※)関連記事:AIでエッジをリッチに、元祖スマートファクトリー「e-F@ctory」の進化

photo 「Maisart」搭載の産業用PC「MELPC」シリーズ。2018年春から展開を開始する。

 オムロンでは、製造現場の知能化を実現するIoTサービス基盤「i-BELT」の強化を訴えた。「i-BELT」は製造現場データを現場レベルで収集・分析して活用するためのIoTサービス基盤となる。オムロンでは以前から高機能プロセッサ搭載のPLCなどを搭載しエッジ領域の制御機器の性能強化に取り組んできたが、「i-BELT」の基軸になるのは、AI機能を搭載したAI搭載マシンオートメーションコントローラーである。

 センサーなど入力機器からのデータをAIコントローラーを経由して同一フォーマット上で収集できるようにする。その後、蓄積したデータの「見える化」や分析を支援。さらに、蓄積したデータ分析から得られた知見を制御アルゴリズムとしてAIコントローラーにフィードバックする。SCF2017では新たに14社のデバイスパートナーを発表。デバイスパートナーの対応機器からのデータであれば、簡単に整形して表示できる(※)

(※)関連記事:センサーレベルからシームレスに連携、オムロンが「i-BELT」パートナーを披露

 三菱電機とオムロンは、以前は制御についてコントローラーで対応していく考えだったが、今回三菱電機が新たに産業用PCの投入を発表。オムロンも2016年に産業用PCに参入している(※)。従来のコントローラーよりも高機能な産業用PCへの取り組みが広がっている点も「エッジリッチ化」の流れだといえるだろう。

(※)関連記事:製造現場の知能化をけん引、オムロンが産業用PCに参入へ

 例えば、ベッコフオートメーションは、多指で双腕を持つ「マルチモーダルAIロボット」を出展したが、この動作を支えたのが最大36コアの産業用PC(IPC)「C6670」シリーズである。「C6670」シリーズは処理能力による速度だけでなく、ベッコフのソフトウェアPLC/NCのTwinCATと組み合わせる事で、コアごとに機能を割り振れるという利点を持つ。ベッコフオートメーション代表取締役社長の川野俊充氏は「制御技術もどんどんソフトウェア化が進んでいき、ソフトウェアで変化を吸収する時代になってきている。その中でハードウェアには基本的な能力の他、汎用性や柔軟性が求められるようになる」と述べている。

photo デンソーウェーブやエクサウィザーズなどと共同開発された「マルチモーダルAIロボット」
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