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» 2018年01月24日 11時00分 公開

車載ネットワーク:次世代の車載ネットワーク「CAN FD」とは (1/4)

セキュリティ対応や自動運転などの車両の高機能化に伴い、より高速な車載ネットワークが求められている。本稿では次世代の車載ネットワークの1つとして考えられているCAN FD導入の背景やプロトコルの概要ついて紹介する。

[竹本順一(ベクター・ジャパン),MONOist]

CAN FD導入の背景と標準化

 自動車の安全性や快適性、コネクティビティの強化、電動化、自動運転機能、サイバーセキュリティ対策などを実現するには、現行の市販車に広く用いられている車載ネットワークであるCAN(Controller Area Network)では通信速度(ビットレート)やデータ長が十分ではありません。そのため、高速でより多くのデータを送れる車載ネットワークが必要です。

 そこでCANを開発したボッシュ(Robert Bosch)は2012年に、CANを拡張する形でCAN FD(CAN with Flexible Data rate)の仕様を発表しました。このCAN FDと関連する形で、2015年にCANのデータリンク層を規定するISO 11898-1の改訂版としてISO 11898-1:2015が、2016年にはCANの物理層を規定するISO 11898-2の改訂版として低消費電力モードやウェイクアップの仕様を含むISO 11898-2:2016が策定されています。

CAN FDのユースケース

 ECUのソフトウェアの肥大化によりプロセッサのROM容量が増えています。ECUを開発する際にはROMにソフトウェアを書き込む必要がありますが、これまではCAN通信で行っていました。しかし、容量の大きなソフトウェアを書き換えるのにCANでは非常に時間がかかってしまいます。そこで、より高速のCAN FDの導入が検討されています。

 また、機能追加によってCANのバス負荷が高くなり遅延時間の増大や帯域不足になった場合、ネットワークを分割することによって帯域不足を解消していました。CAN FDに置き換えれば帯域不足が解消されるためネットワークを分割する必要がなくなります。

 さらにサイバーセキュリティ対策として、AUTOSARで規定されたSecOC(Secure on board Communication)ベースのメッセージ認証の採用が検討され、より多くのデータを1度に送信できるCAN FDの採用を検討する自動車メーカーが出てきています。

 既存のCANネットワークの置き換えだけで無く、高度な安全運転支援システムやセンサーネットワークの一部など、新しいアプリケーションや追加のネットワークでの利用も検討されています。

CAN FDの概要

 CAN FDは、CANのプロトコルを拡張して、より多くのデータを高速に転送できる通信プロトコルです。CANは、複数ノードからの通信の調停を行うアービトレーションフェーズと、データを送信するデータフェーズで同一のビットレートでした。一方CAN FDはアービトレーションフェーズとデータフェーズで異なるビットレートに設定できます。このことがCAN FD(Flexible Data rate)の由来になっています。

 データフェーズの最大ビットレートは明確に規定されておらず、ネットワークトポロジーやECM要件などに大きく依存します。なおISO 11898-2:2016は5Mbpsまでのタイミング要件を規定しています。自動車メーカーではアプリケーションやネットワークトポロジーによってさまざまな組合せのビットレートで使用することを検討しています。

 例えば、診断・リプログラミングの用途では、データフェーズのビットレートが5Mbps、制御系などでは500kbps〜2Mbpsで使用される可能性があります。またCAN FDは1つのデータフレームで最大64バイトのデータを送信できます(プロトコルの詳細はこの後で説明します)。スター型、バス型、ポイントツーポイントなどのネットワークトポロジーで使用されます。

CAN FDプロトコル

 続いてCAN FDプロトコルを説明します。ここではCANから変更された部分を中心に、CAN FDのフレームタイプとフレーム構造、フレーム内の各フィールドの詳細を説明します。CANプロトコルの詳細については過去の連載(※1)をご覧ください。

(※1)連載「“車載ネットワーク“CANの仕組み”教えます」

フレームタイプ

 CAN FDはデータフレームのみ定義されており、CANで定義されているリモートフレームはありません。その理由は、データ領域が存在しないリモートフレームはデータフェーズのビットレートを切り替える必要がないためです。

 データフレームはCANと同様に「標準フォーマット(11ビットID)」と「拡張フォーマット(29ビットID)」の2種類の形式があります。BRS(Bit Rate Switch)ビットからCRC Delimiterビット間のビットレートを高速化できます。以降の図では、CANと同様のビットレートの部分をオレンジ色、ビットレートを高速化可能な部分を青色で表示します。

CAN FDの標準および拡張フォーマット。オレンジ色はCANと同様の転送速度、青色は転送速度を高速化可能な部分(クリックして拡大) 出典:ベクタージャパン

CAN FDフレーム構造

 CAN FDフレームはStart of Frame(SOF)と、アービトレーション領域コントロール領域データ領域CRC領域ACK領域End of Frame(EOF)の7つのビット領域で構成されます。ここでは、各領域とそこに含まれるフィールドについて説明します。

CAN FDのフレーム構造。オレンジ色はCANと同様の転送速度、青色は転送速度を高速化可能な部分(クリックして拡大) 出典:ベクタージャパン

(1)SOF(Start of Frame)

 ノードからフレームが送信されるとき、最初に送信される部分はフレームの“開始”を表すためにドミナント状態とします。この部分を「SOF(Start Of Frame)」と呼びます。SOFはCANと同様に1ビットの“ドミナント”ビットです。SOFがバスアイドルのリセッシブ(1)からドミナント(0)へ変化することにより、受信側ノードは同期を行うことができます。SOFの定義はCAN FDとCANで同一です。

SOF(Start of Frame)。オレンジ色はCANと同様の転送速度(クリックして拡大) 出典:ベクタージャパン
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