特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

2018年の製造業IoTは“プラットフォーム”元年に――ウフル専務八子氏特集「Connect 2018」(1/2 ページ)

IoT関連のサービス構築やコンサルティングなどで大きな存在感を発揮しているウフル。そのウフルで専務執行役員を務める八子知礼氏は、IoT関連の識者として知られ、国内企業のIoT活用について提言してきた。そこで八子氏に、国内における製造業のIoT活用の状況や、今後取り組むべき方策について聞いた。

» 2018年02月02日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 IoT(モノのインターネット)関連のサービス構築やコンサルティングなどで大きな存在感を発揮しているウフル。これまで無償で展開してきたIoTオーケストレーションサービス「enebular(エネブラー)」についても、ユーザーがIoTサービスの商用化を推進できる機能を充実させた上で有償としたエンタープライズ・プランの提供を始めている。

 そのウフルで専務執行役員を務める八子知礼氏は、IoT関連の識者として知られ、さまざまなセミナーやカンファレンスなどで国内企業のIoT活用について提言してきた。そこで八子氏に、国内における製造業のIoT活用の状況や、今後取り組むべき方策について聞いた。



MONOist 国内製造業のIoT活用について2017年はどういった年だったと思いますか。

ウフルの八子知礼氏 ウフルの八子知礼氏

八子氏 2017年は、これまでIoTについて様子見をしてきた人たちが、取り組みを始めた年だったのではないか。これまでは情報収集でとどまっていたが、もはややらざるを得なくなった、といったところかもしれない。政府が将来の産業コンセプトとして「Connected Industries」を掲げたこともトピックになるだろう。

MONOist 電子情報技術産業協会(JEITA)なども「2017年はIoT元年」と言っています(関連記事:「2017年はIoT元年」、2030年の世界市場規模は404兆円に倍増へ)。

八子氏 そこは少し意見が違っていて、ウフルとしては2016年がIoT元年だったと捉えている。2016年以前からIoTに取り組んできた企業の事例が出始めたのが2017年だ。例えば、ファナックが製造現場向けIoTプラットフォーム「FIELD system」の商用化サービスを発表した(関連記事:現場志向のIoT基盤「FIELD system」が運用開始、稼働監視などを年間100万円で)。村田製作所の仮想センサープラットフォーム「NAONA」(関連記事:新生CEATEC、電子部品メーカーはCPS/IoTにどうアプローチしたのか)や、コマツの建設業界向けクラウドIoTプラットフォーム「LANDLOG」などもある(関連記事:コマツ出資のIoTプラットフォームは「オープン」、アプリ開発はデザイン思考で)。これらは、自社単独ではなく、他の会社を巻き込んだ新しい事例やビジネスモデルになっている。

 もし2017年にIoTへの取り組みを始めたとすると、2018年にデータがたまって、2019年に使えるようになるがこれだと遅い。先行している企業のフォロワーにしかなれない。

MONOist 国内の製造業は、海外に比べてIoTへの取り組みが遅れていると言われます。

八子氏 全てが遅れているわけではなくて、進んでいる企業と遅れている企業で2極分化している。進んでいる企業のうち、最先端の事例では、見えなかったアナログデータをシミュレーション可能にして、AI(人工知能)で学習して、デジタルツインの環境を作るところまで行っている。先に挙げたファナックやコマツが好例で、世界全体で見ても先進的なモデルを実現している。そこまで行かなくても、センサーを活用して生産工程をスムーズにするなど、つながることで価値を生み出している企業も多い。

 その一方で遅れている企業は、従来の事業がうまく回っているので、次の工場の再構築をするタイミングでまとめて変えよう、という考え方になっている。「“つながる”とかIoTってコストメリットがあるのか」という意見だ。この傾向は、大手企業よりも中堅や中小の方が強いかもしれない。絶好調の時にこそ、次に向けた仕込みをやるべきだが「今が絶好調で忙しくてやる余裕がない」と言っていたりする。

 各業界のトップ企業は、その業界や企業ならではの取り組みをやっている。「このままモノを売っているだけではヤバイ」と感じている。かつて、中国市場での急成長と急減を体験しているファナックとコマツだからこそ、モノ売りだけでは立ちいかないことを理解して、世界的にも先進的な取り組みを進めているのではないだろうか。

MONOist 国内の製造業は、どうしてもモノ売りにこだわりがちです。

八子氏 IoTによって、作ったモノが“つながる”ことによるメリットを感じられていないのではないか。例えば、日用品や食料品の場合には従来のPOSデータで十分という意見がある。しかし、データの収集の仕方とメリットの捉え方によって得られるものも異なってくる。

 例えば、受験シーズンのゲン担ぎとして、「きっと勝つ」に掛けて「キットカット」が売れる。しかし、この場合のキットカットは、ゲン担ぎにならない“売り切れ”になってはいけないし、商品棚から“落ち”たりしてはいけない。こういう場合には、IoTを活用した方が、時節を捉えてキットカットを売り込めるだろう。

 小売といえば、トヨタ自動車が「CES 2018」で発表した「e-Palette」も、小売のための自動運転プラットフォームとして興味深い(関連記事:「クルマを所有しない時代」に向けたトヨタの答え)。基本的には完成品を売ることを想定していると思うが、中で加工して売ることも可能ではないか。工場を作ると何百億円もの投資が必要になるが、e-Paletteなら数百万〜数千万円の投資で、作って売る移動工場になる可能性がある。

MONOist 政府が掲げるConnected Industriesについてはどう見ていますか。

八子氏 Industriesが複数形の“s”になっていることが重要だ。e-Paletteで自動運転と小売が連携するように、1つの産業にとどまらず、産業をまたがっていくことで価値が生まれる。

 IoTによってたまったデータは、他の産業が活用できるはずだ。例えば、自動車のテレマティクスでドライバーの運転傾向が分かれば、保険の割り引きにつながる。これは金融との関わりだ。市街を走っているクルマの空いてる荷室を使って荷物を運ぶサービスも検討されているが、これは物流との関わりになる。

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