「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像
特集
» 2018年03月28日 06時00分 公開

モビリティサービス:スマホゲームは既存市場を食わなかった? 「MaaS」も新車販売をつぶさない?

モビリティサービスとは何か、既存の自動車業界のビジネスにどのような影響を与えるのか。DeNAの中島宏氏が説明した。

[齊藤由希,MONOist]
DeNAの中島宏氏

 さまざまな移動サービスの1つとして自動車を利用することを、SaaS(Software-as-a-Service)などIT用語になぞらえて「MaaS(Mobility-as-a-Service)」と呼ぶようになった。クルマを必要に応じて借りるなどして使うことを意味し、カーシェアリングやライドシェアなどがその例だ。自動運転車による配車サービスなど、将来の事業化に向けて実証実験が行われるものもある。

 MaaSが浸透すれば、クルマを購入して所有する必要がなくなる場合も考えられる。クルマやその部品をつくって売り、車検などメンテナンスで収益を上げる従来のビジネスが大きな影響を受けかねない。

 しかし、ディー・エヌ・エー(DeNA) 執行役員 オートモーティブ事業本部長の中島宏氏は「スマートフォンのソーシャルゲームはテレビゲームのビジネスを食った訳ではない。既存の市場に上乗せする形でゲーム市場全体が成長した。MaaSも同じで、新車販売など既存のビジネスを損なうものではない」と主張する。

今のクルマは「iモード前夜」のケータイ

 中島氏は、この15〜20年間で携帯電話機とその周辺産業であるゲームや小売りに起きた変化を例に挙げ、自動車でも同じような考えが認知されていくと説明した。

 「2004年ごろ、フィーチャーフォンの画面サイズは3×3cm程度しかなかった。その画面で洋服を見て購入することは考えられなかったが、インターネット通販の普及で小売りの在り方が変わった。ゲームはテレビの前に座る時間が必要で、その時間を取り合っていたといえる。しかし、ソーシャルゲームは数分間でも1日のうちに何度か遊び、結果としてまとまった時間を費やしてもらえる。細切れの時間でも成立する。フィーチャーフォンの頃は端末を選んで買う感覚だったが、スマートフォンになってこうしたサービスを享受するために利用料を払う感覚に変わったのではないか」(中島氏)

携帯電話機がたどってきた変化(クリックして拡大) 出典:DeNA

 今日の自動車は、NTTドコモのフィーチャーフォン向けインターネットサービス「iモード」が普及し始めたのと同じ時期にあるという。中島氏は、今後の自動車は携帯電話機と同様の文脈をたどると指摘する。具体的には、通信インフラと端末の進化によってクラウドサービスが充実し、周辺産業に構造変化が起きる。そして、携帯電話機と同様に15年ほどかけて、サービスとして使うことが自動車でも認知されると見込む。

クルマを使わない人がクルマを使うようになるのが、MaaSの恩恵

 中島氏はMaaSについて「カーナビゲーションシステムにスマートフォンの画面を投影することではない」と前置きし、ハードウェアであるクルマを購入し、サービスを提供することだと述べた。

 サービスには車両のみを提供するものと、運転手もセットで提供するものがあると説明。そのサービスを提供するのが法人か個人か、アプリを活用するかどうかによってMaaSのカテゴリーが派生していく。リースやレンタカー、タクシーといった従来のサービスもMaaSの1つであるとする。

MaaSの分類(クリックして拡大) 出典:DeNA

 中島氏はマイカーとモビリティサービスは利用場面が異なることや、新しいサービスが既存のビジネスを食いつぶさないことを強調した。「レンタカー市場が個人間のカーシェアリングに浸食されているかというと、年々伸びている。カーシェアリングのステーションが増えた地域で新車が売れないということもなく、ダイムラーも自社で提供するカーシェアリングサービス『car2go』によって売り上げは落ちていないと言っている。今までクルマを使っていなかった人たちが、クルマを使うようになることの効果は大きい」(中島氏)。

 MaaSのサービスのカテゴリーは、自動運転車によって垣根がなくなると中島氏は説明した。「レンタカーで自動運転車を借りて目的地まで移動するのはタクシーと何が違うのか、ということになる。業種を超えたサービスの競争になるだろう」(中島氏)。

本当に競合しない? 自動車とIT

 新しいサービスと既存ビジネスが激しい食い合いにならないことに加えて、自動車メーカーとIT企業が競合しないことも中島氏は強調した。

モビリティサービスの基本アーキテクチャと業界の分担(クリックして拡大) 出典:DeNA

 モビリティサービスの確立に向けて、現在は自動車メーカーが持つデータセンターと、IT業界のサービス事業者が持つデータセンターがAPIで連携している。自動車メーカーがAPIを定義して提供しており、サービス事業者が使う形だ。サービス事業者はその上で、顧客や別の事業者にサービスのプラットフォームを提供していく。「車両と車両制御技術のAPIまで提供しようとしているのがトヨタ自動車」だと中島氏は分析する。

 GoogleやUberなどサービス事業者が、これまで自動車メーカーが開発を担っていた車両制御まで取り組もうとする例もある。「トヨタ自動車の方針によって、サービス事業者が自動車のミドルウェアに取り組むチャンスが生まれた。車両制御まで手掛けられれば、大きなもうけが期待できるが、開発投資が膨大になる。年間数千億円という単位で投資が必要だ。DeNAはそこまでできないので、データセンターや通信技術に集中する」(中島氏)。

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