特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

マイケル・ポーター氏が語る、機械から人間の仕事を守るために必要なもの製造業IoT(1/3 ページ)

製造業のデジタル変革において「人間の能力の強化」が重要だと主張するのが、米国の著名経済学者であるマイケル・ポーター氏である。ポイントとしているのが「認知的距離の短縮」である。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー・フォーラムでの講演の内容をお伝えする。

» 2018年04月09日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボットなどの技術の発展により「機械が人の仕事を奪うのではないか」と懸念する論評などが世にあふれている。機械の進化が劇的なスピードで進展する中で、人の働き方はどのように変化していくのだろうか。

 2018年4月5日に都内で開催された、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部主催のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー・フォーラム「テクノロジーは戦略をどう変えるか」では、基調講演として米国の著名経済学者であるマイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)氏とPTCのCEOであるジェームズ・E・ヘプルマン(James E. Heppelmann)氏が登壇。「フィジカルとデジタルの融合」をテーマとし、IoT時代に人間の能力を拡張する意義について紹介した。

photo 講演を行うポーター氏(クリックで拡大)

前提となるデジタル変革の3つの波

 ポーター氏はヘプルマン氏と共同で米ハーバード・ビジネス・レビュー誌にIoTによる産業の変化について2014年から論文の寄稿を続けている※)。今回は、これらの論文で発表した内容から、IoTにおける製品や組織の変化にふれるとともに、2017年に発表した最新の論文から、人の役割を強化するテクノロジーとして「AR(拡張現実)」の価値を訴えた。

※)関連記事:連載「マイケル・ポーターのIoT時代の競争戦略」

 ポーター氏はまず前提となるデジタル変革の動きについて解説。「デジタル変革は全ての業界にとって大きな影響力を持つ変化だ。自社の戦略にとってどういう意味を持って、どう競争していくのかを考えなければならない」とポーター氏は述べる。

 ただ「デジタル変革は決して新しいものではない」ともポーター氏は強調し、コンピュータの発展の歴史が、そのままデジタル変革の歴史だとし、現在の変化は3つ目の大きな変化「デジタル変革 第3の波」だとする。

 デジタル変革が起こっていない「ゼロの波」では人々は情報処理を紙の上でアナログに行ってきていた。これが1960年代にコンピュータが開発されて「第1の波」が生まれる。IT化によりバリューチェーンにおける人の活動内容のデータ収集が自動化できるようになった。「CADなど製造業におけるデザインプロセスがコンピュータ化されてきたのもこの第1の波の変化の1つだ」(ポーター氏)。

 「第2の波」はインターネットの登場である。情報の交換を人と人の間だけでなく地域間や企業間で容易に低コストで行えるようになり、バリューチェーンの分散や連携などができるようになった。SCM(サプライチェーンマネジメント)やPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)などもこの波によって生まれ、グローバルバリューチェーン全体での調整や連携が可能となった。

 そして「第3の波」がIoTにより、「モノがつながる」ことで実現する世界である。製造業にとって製品が「SCP(スマートコネクテッドプロダクト)」になっていくことで、製品そのものがデータを生み出し、新たな価値を作るようになる。象徴的な動きが予知保全などだが、特に製造業におけるビジネスの競争の位置付けが大きく変化することになる。

photo デジタル変革の3つの波(クリックで拡大)出典:PTCジャパン

SCP化で生まれる製品の境界線の変化

 ポーター氏は「第3の波に飲み込まれた時に、製品が常に接続し、データを生み出し続けるようになる。その時には製造業が提供すべき製品の境界線は大きく変化する」と述べる。

 メカや機械だけの時代にはもともと製品単体だったが、スマート製品化し接続機能を持つようになると「製品システム」として周辺の機器を組み合わせて機能する形になる。そしてこうしたシステム同士を最適に組み合わせた複合システム化(Systems of System)へと進む。

 ポーター氏は「農業機械の例で考えてみると、トラクターの単体の製品だったのが、SCP化することで種をまく装置や収穫機械などと接続できるようになり、一連のプロセスのデータ収集ができるようになる。さらに、かんがいシステムや外部システムとつながることで複合システム化が進み、製品単体での価値ではなくなり、『コト』としての価値提供なども進む」と述べている。

photo スマートコネクテッドプロダクト化による製品の変化(クリックで拡大)出典:PTCジャパン
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