伝統産業と清流の国のインダストリー4.0――岐阜イノベーション工房プロジェクト(岐阜県)地方発!次世代イノベーション×MONOist転職

「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第20回。岐阜県で2018年度からスタートする、製品・サービスのイノベーション創出を推進するための人づくりプロジェクト「岐阜イノベーション工房プロジェクト」を紹介する。

» 2018年04月20日 09時00分 公開
[MONOist]

イノベーションの概要

 岐阜県では、2018年度から新事業創出のための人づくり「岐阜イノベーション工房プロジェクト」をスタートする。その目的は「新商品・サービスのアイデアを生み出す思考方法や先端技術を活用した効果的な試作品(プロトタイプ)製作の手法などについて、演習プログラム及び実習プログラムなどを通して身に付けることで、自社製品・サービスのイノベーション創出を推進する」こと。2013年に策定され2017年3月に改定された「岐阜県成長・雇用戦略」の8つの重要プロジェクトのうち、「岐阜県第4次産業革命推進プロジェクト」「企業技術力強化支援プロジェクト」の取り組みとしても明記されている。

 同プロジェクトを実施する「情報科学芸術大学院大学」(IAMAS:Institute of Advanced Media Arts and Sciences、以下『IAMAS』)は、「科学的知性と芸術的感性の融合を目指す大学院大学」として県が2001年に設置したもの。岐阜県では、産業、教育、福祉などあらゆる分野が情報化された「暮らしよい岐阜県」の実現を目指す地域情報化推進政策「ソフトピアジャパンプロジェクト」を推進しており、情報産業を育成、振興、集積する中核拠点「ソフトピアジャパン」(1994年設立)とともに、IAMASの前身である「岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー」を1996年に設立している。

IAMASの校舎

 IAMASの教育研究方針は「工学・アート・デザイン・社会学など専門分野が異なる教員がIAMAS独自の方法論を積み上げ、『新たな領域を開拓し、斬新なコンセプトを作る力』を目指すこと」。経済産業省の「ものづくり白書2017」でも着目している「デジタルツールを活用して新たな商品やサービスを創造する『思考方法』」「多様な価値観・意見をコンセプトに取り入れる『デザイン思考』『システム思考』」は、まさにIAMASが培ってきた手法であることなどから、社会人向けに岐阜イノベーション工房プロジェクトを実施するに至った。IAMAS教員の他、外部講師も招き、IoT演習、AI演習、デジタル設計演習、デジタル製造演習、フィールドワーク演習、アイデアスケッチ演習、ハードウェアスケッチ演習、プロトタイプ製作演習、ユーザーテスト演習、ドキュメンテーション演習を各6時間、計60時間のプログラムを予定している。

イノベーションの地域性〜岐阜県といえば……

 岐阜県は、北部の飛騨地域に標高3000mを超える山々が連なり、南部の美濃地域には木曽川、長良川、揖斐川の木曽三川が流れる濃尾平野がある。「清流の国ぎふ」というゆえんは、岐阜県北部の山岳から岐阜県内を縦断する長良川の清流。鮎の鵜飼で有名だが、2015年には「清流長良川の鮎」(里川における人と鮎のつながり)が世界農業遺産に認定されている。鮎はもちろん、都市部を流れる川でありながら保たれている清流や生態系、水を育む源流の森、水とともに暮らす伝統文化やなりわいなど「長良川システム」が評価された。

鵜飼(長良川)

 「天下分け目の戦い」で知られる関ケ原も岐阜県。本州のほぼ中央に位置し、古来より東西、南北の交通の要でもあり、関ケ原付近を境とする東西文化の違いも見られる。

 昔からモノづくりが盛んで、製造業は県の中心的な産業。製造業の就業者数は25%を占める。飛騨の家具、美濃和紙、関の刃物、美濃焼など、伝統的かつ有名な地場産業も多く、海外に向けた岐阜ブランドのPRも積極的に展開している。

ここに注目! 編集部の視点

 IAMASでは、2012年に3Dプリンタやレーザー加工機などを利用できる工房「f.Labo」(現在は「Fab-core」に引き継がれている)を開設。また2013年からは地場産業と情報産業がコラボして新製品の商品化を目指す「コア・ブースター・プロジェクト」にも取り組んできた実績がある。例えばコア・ブースター・プロジェクトによって生まれた第一弾の製品「光枡(ひかります)」は、文字通り光る枡。枡生産の全国シェア8割という大垣市の老舗枡メーカー大橋量器と情報産業のコラボによるもので、クラウドファンディングによって実現させた。

 伝統産業が厳しい状況にあるのは岐阜県も例外ではない。しかし、岐阜イノベーション工房プロジェクトなどの取り組みと相まって、伝統産業と清流の国「ならでは」の新しい魅力を持った「何か」が生まれていくに違いない。

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