連載
» 2018年05月07日 10時00分 公開

AUTOSARを使いこなす(3):AUTOSARを「使いこなす」ということを考えてみる(後編) (1/3)

車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。第3回では、「AUTOSARに対する期待は何か?」という問いへの答えを考えてみよう。

[櫻井剛,MONOist]

 前回の前編に続き、「AUTOSARを使いこなす」ということについて、考えていきたいと思います。

前回のおさらい

 必要に迫られて変化を続けるAUTOSARの「使いこなし」に、終わりはありません。しかし、「追従」という言葉だけで終わらせるのは適切ではありません。AUTOSARは「自ら意思を持って変化させる」ということができる対象なのです。しかし、やみくもに変化させるだけでは意味がありません。何らかの意図が必要になります。

 そして、その意図は、「AUTOSARに対する期待は何か?」という問いから生まれます。これは、これまで長年にわたり筆者が繰り返し皆さまに問いかけてきた問いです。しかし、その問いの答えは、少なくとも日本国内では容易に得られるものではありませんでした。

 でも、全く前に進まなかったわけではありません。「ひょっとして、自力で解決できる制約の範囲だけで『期待』を見つけようとしておいでではありませんか?」という問いかけがきっかけで議論が進んだという経験から行き着いた、「期待」を見いだすための議論において、必要以上の制約に思考が縛られてしまっているのではないか、また、自らの理解の範囲や想像力、あるいは、自らが置かれた制約の範囲に押し込めてしまうことで、期待の芽や可能性をつぶしてしまっているのではないか、という筆者の見立てをご紹介しました。

 これらを踏まえて、今回はさらに、「期待」をどう見いだすか、その芽や可能性を伸ばすためにはどうしたらよいか、というところから考えていきたいと思います。

これで解決(銀の弾丸?)

 正解はシンプルです。まさに銀の弾丸です(後述)。

 まずは多くの異なる立場の方々と議論をしてみましょう。期待と、その実現手段の両方についてです。たぶん、これしかありません。ただ、手間は掛かりますので、お急ぎの方には役立たないかもしれませんが……(存在し得ない一撃必殺の答えを象徴する「銀の弾丸」と書いたのは、これが理由です)。

 期待に関する議論においては、AUTOSARのエキスパートだけを集めるよりも、むしろ、AUTOSARは知らないけれど、現状(AUTOSAR導入以前のやり方)には満足していない、という方々も多く集めるべきです。AUTOSARのエキスパートは、「期待できること」のヒントをもたらしてくれる可能性がありますが、現場における従来の困りごとに対する把握の度合いは、あまり高くないかもしれません。そして、実現手段については深入りしてはなりません。実現できそうにないことでも、実現できることがあるからです。

 そして、その次の実現手段に関する議論においては、さまざまな方に聞いてみましょう。既にAUTOSARに携わっているエキスパートの人数はそれなりの規模になっていますから、エキスパートを巻き込んで、ぜひ意見を聞いてみましょう。なお、「筆者が何でも知っている」ということであれば、筆者にだけお声掛けいただければいいのですが、あいにくそうではございません。他の方々にも声をぜひかけてみてください。

 当然のことですが、「何でも知っている人」は存在しないと考えてください。仮に「何でも知っている」と自称する人がいたとしたら、その人は前編にも掲載した図1の地平線の外側にまだお気気付きではない、というだけかもしれません。しかし、その方からも何らかの有益な意見が得られることもあるでしょうから、まずは注意深く聞いてみてください。

 また、社内の経験者の発言に対しても、地位や過去の実績、関係性などといったものによるバイアスを極力取り除いて、耳を傾けるべきです。地位は、新たなものに関する知見の深さとは無関係であることも少なくありません。

図1 図1 視点が高くなれば、地平線の先に隠れていた「新たな課題」が見えてくる(再掲)(クリックで拡大) 出典:筆者作成

 これらの議論においては、AUTOSARの価値や可能性といったものに対し、「絶対に最終的な判決を下そうとはしないこと」、これを必ず守ってください※1)。AUTOSARそのものやそれを取り巻く環境は刻々と変わっていきます。また、「何でも知っている人」は存在しないのですから、別の人に話を聞けば新たな知見が得られる可能性があります。一時的な評価や判断はもちろん必要でしょうが、それはあくまでその時点でのものとわきまえるべきでしょう。いっそのこと、最終的な結論は、AUTOSARの利用を終えた後の総括まで取っておいてはいかがでしょうか。もしも、その前にこうだと決め付けることをしてしまったら、その後は聞く耳も見る目も失ってしまうことになりますが、その不名誉な事態は、意識していれば回避することもできます。

※1)「空気を読もうとしないこと」「空気を読むことを強いないこと」も重要です。また、「Non-AUTOSARの従来のやり方 vs. AUTOSARの対決だと勘違いしないこと」も同様に重要です。AUTOSARは避けて通れるものではありません。

 また、その議論においては、「なんだ、AUTOSAR以前の世界でできていたことと、そんなに変わらないじゃないか」という思いにとらわれてしまうかもしれませんが、それも「結論を急ぎすぎ」です。従来とわずかな差しかないように見えて、大きな影響のあるものもあるかもしれませんから、注意深く検討し、結論を急がないことが重要です。

 厳しい言い方になりますが、「自力で考える」「自分が決める」というぜいたくを楽しみすぎていないだろうか、不十分/不確実な理解や判断を積み重ねたりしていないだろうか、と振り返ってみることには十分に価値があると思います。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.