AUTOSARを「使いこなす」ということを考えてみる(後編)AUTOSARを使いこなす(3)(2/3 ページ)

» 2018年05月07日 10時00分 公開
[櫻井剛MONOist]

一般的な「期待できること」の例(抜粋)

 あくまで気付きのきっかけとしていただくために、以下に「期待できること」の例(抜粋)を挙げます。

 ただし、まずはできるだけ以下の例を読まずに自由発想で議論していただき、その後、後述の「AUTOSAR導入の背後にある一般的な性質」を見て再度議論、そして、その際に理解の助けとする程度の目的でこちらをご覧になるようにしていただけないでしょうか。例から新たな気付きがあれば議論を深める、というようにお使いいただければと思いますが、まかり間違って、大きな概念を理解しやすくするための例によって、概念が矮小化されて理解されてしまうことになりますと、大変もったいないと思います。

 そのような背景で、一部のみのご紹介としています(決して、出し惜しみしているわけではございません!)。

  1. 今後登場する新たな技術への対応を容易に
    • 新たな技術などへの対応時の、アーキテクチャやワークフロー面での変更の影響の局所化(例:従来のCANからCAN FDや車載イーサネットなどへの対応を、SW-Cの変更なしに行うことが可能に)
    • 汎用品を利用可能であることによる、開発負担の低減(注:汎用品しか使えないわけではありません、また、汎用品+カスタム開発品の組み合わせなども可能です)
  2. 独自ソリューションに関する負担や制約などからの開放を可能に
    • 知財コストの低減(例:AUTOSARでカバーされる範囲での知財調査の手間を抑制可能に)
    • 開発、維持コストの低減(例:保守や教育などで、「汎用品」が利用可能に)
    • 自動車メーカーごとの独自ソリューションに関する情報開示を受けなくとも、高度な実装レベルを持つ試作品の開発が可能
  3. 関心のある特定部分に専念しやすく、それ以外の部分を外注しやすく(ただし、その境界線はAUTOSARで想定された部分であること)
    • 全体知識を持たずとも、一部の得意領域に特化した形での市場参入が容易に(例:特定用途向けSW-Cのみを供給するソフトウェアベンダー)
  4. より多くの設計情報を形式化/標準化し、授受しやすく
    • 高度な自動化の可能性(例:コードや設計書に対する人力でのレビューではなく、XML内のパラメータなどを利用して自動的に検証できるようにすることで、再検証などの工数/期間を減らし、最終的にはTATを短縮しやすく)
  5. 特定ベンダー製品に固有のデータ形式を利用することによるロックインリスクの回避(例:データ形式やそれを利用した機能の拡張が、ベンダー側スケジュールなどに大きく左右されることからの脱却)
  6. 企業間/担当者間のコミュニケーションの改善(例:共通の用語や概念を土台とし、その上に構築される用語や概念などを共有しやすく)
  7. 自動車メーカーなどから供給されるソフトウェアのインテグレーションにおける「インタフェースあわせ」の手間の抑制とTAT短縮
    • 標準化されたインタフェースの利用による、本質的な手間の抑制
    • 標準化され形式化された設計情報を利用した自動化による、本質的な手間の抑制と高速化(例:通信マトリクスの変更に伴うインタフェース変更部分を、自動コード生成を再度行うだけで対応)
    • バイナリ形式(振る舞いの内容などの知財をある程度隠蔽した形)での授受を容易に
    • さらには、ECUへのSW-C配置の自由度向上も
  8. バリアント増大の抑制
  9. 不可避となる大幅な変更に合わせてのレガシー問題の解決
    • Non-AUTOSARの従来ソリューションでは対応できないような、AUTOSAR固有またはAUTOSAR以降に導入された通信仕様への対応をきっかけに、互換性の喪失への恐れが障壁となって実現できなかったレガシー問題を一挙に解決
    • ソフトウェアのリファクタリングの機会の獲得(分割境界線の見直しなど)

 これらからすぐにお分かりになるように、各プロジェクトの現場でクローズするような局所的かつ短期的なトピックよりも、組織全般の戦略や戦術に関わるような比較的長期にわたるものの方が多くなっています。

 また、誰かにとってうれしいことは、必ずしも他の全ての人にとってうれしいものとは限りません。もっと露骨な言い方をすれば、誰かが何かを得るということは、他の誰かが何かを奪われるということを意味するかもしれません。その要素を自然な解決に任せようとしたとき、果たしてスムーズかつ迅速に進むでしょうか。

 組織内外の調整のような大きな壁を乗り越えなければ、実現範囲は無難でこぢんまりとしたものとなり、大した効果も期待できないでしょう。しかし、十分な権限を持つ方にご活躍いただければ、大きな効果を生むための飛躍も可能になるのです。ですから、AUTOSARの組織への導入は、ボトムアップよりも、トップダウンで進める方が自然なのです。

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