自動車の進化とともに100年に一度の変革期を乗り越える自動車技術(1/2 ページ)

自動車業界における100年に一度の変革期とは何か、電動化の時代に向けた備えとは。国内外の自動車産業を取材・分析してきた自動車調査会社 フォーインの久保鉄男社長に話を聞いた。

» 2018年05月08日 13時00分 公開
[加藤まどみMONOist]
フォーインの久保鉄男社長

 自動車業界は今、電動化や自動運転、コネクテッドカー、シェアリングといったキーワードで語られる100年に一度の変革期を迎えているといわれる。その内容や、中でも中心となる電動化に向けてどのような準備をすればよいのか、自動車調査会社のフォーイン 取締役社長 久保鉄男氏に話を聞いた。

MONOist 自動車業界は今、100年に一度の変革期を迎えていると言われます。あらためて何が起きているのかお聞かせください。

久保氏 1つは自動車の動力の電動化、もう1つは大きく言えばデジタル化だ。自動運転やコネクテッドカー、シェアリングなどもデジタル化に伴って起こった変化に含まれる。より高速で正確な相互通信や、センサー性能の向上、認識技術の向上、ディープラーニングなどによって、自動運転ができたり大量に上がってくるデータを利用したりできる時代になったということだ。どこに誰がどのような状態でいるのかが分かるのでシェアリングという利用形態にも対応しやすくなる。

中国市場の拡大のほうがある意味インパクト大

MONOist 質的な変化が一気に訪れているということですね。

久保氏 そうではあるが、100年に一度という表現は大げさすぎるかもしれない。自動車産業の歴史はまだ100年程度だ。今までも何かあるたびにかつてない変革期と言ってきたので、100年という数字自体に特別な意味があるとは思っていない。ただ、これまでのプレイヤーが入れ替わるかもしれない点は非常に大きい。そういう意味ではインパクトに合ったフレーズだと思っている。

MONOist 既存の自動車産業にどのようなことが起きているのでしょうか。

久保氏 自動車産業は裾野がとても広く、社会に与える影響も大きい。その分、開発にも資金力が必要だ。開発から生産、販売、メンテナンス、そしてモデルチェンジのサイクルを回す必要がある。このため新たな参入はこれまでは難しかった。だがそこに、電動化やIT革命、シェアリングといった話が出てきた。新たな参入はないという考えを改める必要が出てきた。

MONOist 今回よりも大きな変化は今までにあったのでしょうか。

久保氏 自動車産業は市場規模で決まるところがある。そのため中国の市場拡大は大きな出来事だ。2017年の中国における自動車販売台数は3千万台近く。世界全体で1億台近くなので、約3分の1を占める。自分がこの業界に入った1980年代は100万台にも満たなかった。保有台数は、人口規模と経済の発展段階によって決まってくる。中国がいずれ大きな市場になることは予想していたものの、これほど急速に近代化して伸びてくるのは想定外だった。今や中国現地資本の自動車メーカーの親会社がVolvo Cars(ボルボ)を買収したりDaimler(ダイムラー)の筆頭株主にもなったりしている。もしかすると今回より中国の市場拡大の方がインパクトとしては大きいのではないかと思う。ただし、これはビジネス構造やプレイヤーの変化というより、単純に従来の延長のまま規模が変わったというものだ。

なぜ日本ではライドシェアが進まないのか

MONOist 今回起きている変化の1つであるライドシェアですが、日本で進まない理由は何でしょうか。

久保氏 やはり規制があるからだろう。自動車を持っているからといって、好きな時に運送業をやれるわけではない。人を乗せてお金を取ることには許可がいるからだ。また乗りたい人と乗せたい人とお互いのマッチングが必要になる。それを可能にするアプリを作ったのが配車サービス大手のUber(ウーバー)だ。このマッチングを実現できる社会と受け入れない社会があるということになる。

 そこは日本独特の、自由競争が“あるような、ないような”感じだ。交通機関は公共サービスの一環なので、政府が責任を持って最終ユーザーに提供するべきという建前がある。知らない人同士でトラブルが起きた時、それを自己責任と言ってしまえる社会と、許可しているのだから政府の責任だという社会との違いだと思う。

 民泊も同様にマッチングの一種といえる。政府に責任を問う社会であれば、簡単には許可できないとなる。その結果、実現には程遠いという人もいれば、そのおかげで助かったという人もいる。

kWh当たり80ドルがターニングポイント

MONOist 電動化に対して、日本の自動車産業はどう動いていくべきでしょうか。

久保氏 電動化はどうしても避けては通れない。各国の規制には対応していく必要がある。だがその一方で忘れてはいけないのは「マーケットは電動化を望んでいない」という事実だ。つまりマーケットが望むレベルの製品をまだ出せていない。EV(電気自動車)においてバッテリーのコスト比率は高いため、ある意味バッテリー価格が全てを決めるといえる。現在のバッテリー価格は高い。いずれ安くなるという共通認識はあるものの、誰も将来の価格の推移を読めていない状態だ。

MONOist バッテリーの価格を決める要素は何でしょうか。

久保氏 要素はいくつかある。まずリチウムイオンバッテリーの正極材に使用されるコバルトだ。コバルトはバッテリー材料の中で最もコストが高い。この価格が2016年末ごろから一気に上がって高止まりしている。この先の変化は分からない状態だ。また、バッテリーメーカー各社はコバルトの使用比率を下げる方向で開発を進めているが、こちらもいつ実現するのか見えていない。また次世代の全固体バッテリーはいつ実用化するのか、そのエネルギー密度や安全性、価格はどうなのかといった要素がある。

 リチウムイオンバッテリーの価格を日産自動車のリーフを例にとってみると、初期の搭載バッテリーのセル単価はkWh(キロワット時)当たりが約4万円だった。その後2016年末に発売されたGMのシボレーボルトはkWh当たり約150ドルだった。1万5千円と換算すれば、3分の1近くにまで落ちたということだ。今後、kWh当たり80ドルの製品が出てくれば、大きな変化が起きる時代に入ると考えられる。ただそれがいつかは分からない。

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