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自動運転開発のデータサイエンティスト確保へ、トヨタがベンチャーに4億円出資自動運転技術

トヨタ自動車は2018年5月30日付でALBERT(アルベルト)に4億円を出資し、自動運転技術の先行開発に必要なビッグデータの分析を強化していく。また、ALBERTはトヨタ自動車にデータサイエンティストの育成ノウハウも提供し、自動運転技術の実用化に貢献する。

» 2018年05月18日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 トヨタ自動車は2018年5月17日、東京都内で説明会を開き、ビッグデータ分析を得意とするALBERT(アルベルト)に出資した背景や狙いを説明した。

 両社はこれまでにも業務委託で取引があったが、トヨタ自動車にとっては大量のデータを分析する工程での技術と人的リソースの不足が課題となっていた。トヨタ自動車は同年5月30日付でALBERTに4億円を出資し、自動運転技術の先行開発に必要なビッグデータの分析を強化していく。また、ALBERTはトヨタ自動車にデータサイエンティストの育成ノウハウも提供し、自動運転技術の実用化に貢献する。

ALBERTとは何者か

ALBERT 社長の松本壮志氏

 ALBERTは2005年に創業した企業で、データの分析コンサルティングやデータサイエンティストの育成、アルゴリズムの提供を事業とする。マーケティングを主戦場とし、レコメンドエンジンなどを強みとしてきた。2008年から大学と協力して画像解析の研究を進めており、2013年には深層学習(ディープラーニング)の商用化サービスも提供している。2015年に東証マザーズに上場、2017年末時点の資本金は8億8354万円だ。

 トヨタ自動車はALBERTに出資することにより、人工知能(AI)技術の開発工程のうちの1つを強化する。説明会に出席したトヨタ自動車 自動運転・先進安全統括部 第2自動運転技術開発室長の平野洋之氏は、AIの開発には大きく3つの工程があると説明。1つは大量に集めたデータの中から、必要なデータを抜き出すことで、これがALBERTが得意とする分野だという。2つ目はアルゴリズムの構築、3つ目が車両へのアルゴリズムの実装だ。「Preferred Networks(PFN)はアルゴリズムの構築を得意としており、ALBERTとはすみ分けている」(平野氏)。

トヨタ自動車の平野洋之氏

 ALBERTは約100人のデータサイエンティストが在籍している。「国内トップクラスの技術を持っており、自動運転技術の今後数年の開発動向を考えると、このリソースを確保したい」(平野氏)とトヨタ自動車は期待する。ALBERTは自動車に特化した企業ではないが、「画像や音声の研究を長期に続けており、CANデータのような構造化データも扱える。マーケティング出身の企業ではあるが、トヨタ自動車に貢献できるくらいの技術力は身につけてきた」(ALBERT 執行役員 先進技術統括 営業推進部 部長の安達章浩氏)。

 トヨタ自動車は2020年に高速道路の自動運転システム(ハイウェイチームメイト)を、2020年代前半には一般道の自動運転システム(アーバンチームメイト)の実用化を目標としている。そうした開発においては、トヨタ自動車が蓄積した膨大な走行データの中からAIの学習に必要なデータを探し出す必要がある。「どんな走行場面のデータが必要かはトヨタ自動車が検討し、ALBERTがデータを見つけ出すソリューションを提供する」(平野氏)。

データサイエンティストが一人前になるには、「才能のある人で半年かかる」

 データサイエンティストは人材が不足してるが、育成には最低でも半年間かかると安達氏は説明した。「文系出身者にはハードルが高い。理系であればいいというわけではなく、論文を探しだすリサーチ能力が必要になる。最新のディープラーニングの理論を使うにあたっては論文を探してこなければならない。プログラムを作るためのコーディング力や、お客さまの課題を理解する力も求められる。才能のある人に教育しても最短で半年だ」(安達氏)。

 データサイエンティストの人材不足に対応して、ALBERTは2018年度に数理統計分野を学んだ新卒13人を採用するなど、データサイエンティストの採用と育成を強化している。しかし、2017年12月期(2017年1〜12月)の決算では、前年比で8割近く増加した人材採用コストが収益を圧迫しており、営業損益は1億6100万円の赤字に悪化した。今回発表したトヨタ自動車との資本提携は、データサイエンティストやプロジェクトマネージャーなどの人材採用で武器にしていきたい考えだ。

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