特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜
インタビュー
» 2018年05月24日 10時00分 公開

モノづくり×ベンチャー インタビュー:組み込みベンチャーが決断、「自動運転のAI止めます」の真意 (1/2)

組み込み機器向けのセキュリティとAIで存在感を発揮しているのが、2009年創業のベンチャー企業・SELTECH(セルテック)だ。創業時から組み込みセキュリティに注力してきた同社は、車載関連での実績を基にAIソリューションにも展開を広げている。SELTECH 社長の江川将偉氏に話を聞いた。

[朴尚洙,MONOist]

 あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)が注目を集めることによって、これまで通信機能を備えていなかった組み込み機器にも大きな変革がもたらされつつある。

 組み込み機器向けのソフトウェアである組み込みソフトウェアを開発する上でもIoTの影響は大きい。インターネットにつながる以上、PCやスマートフォンなどと同様にセキュリティを確保しなければならなくなった。そして、IoTという枠組みの中では、組み込み機器にはエッジコンピューティングを担う役割も期待されており、AI(人工知能)にも取り組まねばならなくなっている。

 組み込み機器向けのセキュリティとAIで存在感を発揮しているのが、2009年創業のベンチャー企業・SELTECH(セルテック)だ。創業時から組み込みセキュリティに注力してきた同社は、車載関連での実績を基にAIソリューションにも展開を広げている。SELTECH 社長の江川将偉氏に話を聞いた。



MONOist SELTECHの創業前はどのような事業に携わっていたのでしょうか。

SELTECHの江川将偉氏 SELTECHの江川将偉氏

江川氏 大手のエレクトロニクス商社に在籍しており、地上デジタル放送関連のモノづくりに関わっていた。それまでのブラウン管テレビの開発はハードウェア中心だったが、地デジ化によってソフトウェアに開発の重心が置かれるようになった時代だ。

 にもかかわらず、そのころの日本ではソフトウェアはタダで手に入ると思っている人が多かった。特に製造業かいわいではそうだった。そのせいか、リーマンショックに起因する不況では、モノづくりに関わる多くのソフトウェアエンジニアが首切りにあっていた。

 このままでは日本のモノづくりのソフトウェアが立ち行かなくなる……。そう考え、彼らの受け皿となるソフトウェア開発企業としてSELTECHを設立した。玄人好みのするソフトウェアを手掛ける、誰にもまねできないソフトウェアを開発する企業にしようと考えていた。

MONOist 草創期はどういった事業を手掛けていましたか。

江川氏 当初は、もともと関わっていた地デジ関連や、そのころ盛り上がってきたAndroid関連が中心だった。その後、2010年ごろにArmからオファーがあり、同社プロセッサコアのセキュリティ拡張機能「TrustZone」向けのソフトウェア開発を手掛けることになった。そして、TrustZoneで何ができるかを考え、そこに仮想化技術を組み込もうと決めた。実際に取り組んでみたら3カ月で技術が完成。それが、当社の組み込み機器向けハイパーバイザー「FOXvisor」だ。これが、国内の大手自動車メーカーや通信キャリアに高く評価された。

 組み込み機器の基盤に入るハイパーバイザーを手掛けるようになると、組み込み機器でやりとりされるさまざまな情報が分かるようになった。これを基にして、音声情報の認識技術にも事業を広げた。当社のAI(人工知能)関連技術はここから始まっている。また、車載関連でも、NVIDIAのエコシステムパートナーとしてGPUによる並列処理技術を扱うようになった。自動運転技術はこれが起点になっている。

MONOist IoTセキュリティに注目したのはいつごろですか。

江川氏 2015年ごろからIoTが注目されるようになり、あらためて組み込み機器のセキュリティがクローズアップされるようになった。しかし、ITシステム向けのセキュリティはリソースの問題もあって組み込み機器ではそのまま使えない。そこで考案したのがハイパーバイザーによる分離という手法だ。さまざまなプロセッサ向けにFOXvisorに展開を広げることで、組み込み機器でもセキュリティを実現できる。

 FOXvisorは、ベアメタル型のハイパーバイザーでプロセッサとOSの間に入る。CPU使用効率は1%で、容量も32KBと小さい。幅広いOSを利用可能であり、プロセッサアーキテクチャもArmだけでなくインテル、MIPSなどにも対応している。まさにIoTセキュリティに適しているといえるだろう。

 とはいえ、セキュリティの概念の中でハイパーバイザーの位置付けが分かりにくいのが課題だ。1990年代に出てきたPC向けのアンチウイルスやOSアップデートをレベル1とすれば、2000年代のファイアウォールやVPNはレベル2だ。IoTセキュリティに求められるレベル3は、OSの下層、CPUの上層、OSとCPUの間で守るものであり「セキュリティ3.0」になると考えている。

ベアメタル型ハイパーバイザー「FOXvisor」による「セキュリティ3.0」 ベアメタル型ハイパーバイザー「FOXvisor」による「セキュリティ3.0」 出典:SELTECH

MONOist 2017年2月には、IoTセキュリティの団体であるセキュアIoTアライアンス(SIA)を発足させました。

江川氏 さまざまな分野の人々に参加してもらい、IoTとセキュリティについて検討する団体だ。「IoT」と「セキュリティ」は本来対になるものだが、一緒に実現することは難しい。横浜国立大学 教授の松本勉先生の協力を仰いで実証実験も進めており、いろいろな課題が見えてきている。

 IoTセキュリティで最も先行している分野は自動車だろう。次世代の車載ソフトウェア標準であるAUTOSAR Adaptive Platformは仮想化技術を採用する方針を打ち出しているし、機能安全規格のISO 26262の存在などもあってか、家電などと比べてセキュリティに対する意識が高い。そこで、自動車関連向けの取り組みを参照モデルにして、他分野に展開していきたいと考えている。

 自動車は人命に関わるからセキュリティに注力せざるを得ないという意見もある。しかし、例えば冬場の雪国でスマートロックがハッキングされてしまったら、家に入ることができずに凍死を引き起こすかもしれない。SIAの発足からこの1年間で、IoTセキュリティをやらないことで起こり得る問題の大きさは認識されつつある。家庭で用いられるIoTのセキュリティの議論もまとまってきた。SIAとしては2018年9月にIoTセキュリティに関する仕様をリリースする予定だ。

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