「24時間走り切る強さが足りなかった」、速さと強さで2018年のル・マンに挑むモータースポーツ

トヨタ自動車がFIA 世界耐久選手権(WEC)の「ル・マン24時間レース」(2018年6月16〜17日、フランス)の参戦概要を説明した。

» 2018年05月31日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
「ル・マン24時間レース」に臨むハイブリッド車「TS050 HYBRID」(クリックして拡大)

 トヨタ自動車は2018年5月29日、東京都内で会見を開き、FIA 世界耐久選手権(WEC)の「ル・マン24時間レース」(2018年6月16〜17日、フランス)の参戦概要を説明した。WEC 2018〜2019年スーパーシーズンは、昨シーズンまでと同様にハイブリッド車「TS050 HYBRID」で参戦。LMP1クラスでは唯一の自動車メーカーによる参加チームとなる。

 ル・マン24時間レースでの勝利は今シーズンの最大の目標と位置付けている。2017年の同レースでは史上最速のコースレコードでポールポジションを獲得したが、参戦車両3台にトラブルが相次ぎ、2台がリタイア、8号車は総合9位で完走という結果となった。今シーズンは速いだけでなく、24時間を走りきれる強さをテーマに臨む。

強さが足りなかった2017年

写真左からトヨタ自動車 GRマーケティング部 部長の北澤重久氏、GRモータースポーツ開発部 部長の小島正清氏(クリックして拡大)

 トヨタ自動車 GRモータースポーツ開発部 部長の小島正清氏は会見で「2018年のテーマは速さと24時間走り切る強さを兼ね備えること」と説明。強いクルマづくりと強いチーム作りの両輪に取り組んだ。

 2017年のル・マン24時間レースでは3台が立て続けにトラブルに見舞われた。7号車は開始10時間までレースをリード。しかし、セーフティーカーの指示によりコース上で停止後、クラッチ操作で再発進しようとしたことにより、クラッチが破損した。これは通常は行わないクラッチ操作で、ピットレーンであればモーターで始動することができた。

 8号車は7号車に次いで2位をキープしていたが、8時間目を迎える直前にフロントモーターにトラブルが発生。モーターとバッテリーの交換作業で2時間をロスしたものの、29周遅れの54位から総合9位まで追い上げて完走した。

 9号車は別クラスのLMP2の車両に追突され、左リアタイヤのパンクと油圧系統にダメージを受けた。シフトチェンジできない状態でピット目前までたどり着いたが、リタイアとなった。

 小島氏は「車両やHVシステムの信頼性向上を中心に、あらゆる部品をねじの1つ1つから徹底的に見直した。また、チームが予期せぬトラブルに全員で素早く対処できるよう、実車でトレーニングを実施した。どんなタイムで走るかよりも、壊れないクルマを作り、ピットに入れたクルマを速やかにコースに戻すことに集中する」と説明した。

プリウスの上を行く熱効率、馬力5倍のエンジンで臨む

 今シーズンのル・マン24時間レースでは、トヨタ自動車が参戦するLMP1クラスのレギュレーションが一部変更になる。ハイブリッド車のみのカテゴリーが廃止されたことを受け、非ハイブリッド車とハイブリッド車の速さが均等になるようにするため、最大燃料流量、1回あたりの給油量などの項目で非ハイブリッド車が有利な条件となる。

LMP1クラスのレギュレーションは非ハイブリッド車が有利に(クリックして拡大) 出典:トヨタ自動車

 例えば非ハイブリッド車は、より多くの燃料を使うことができる。ハイブリッド車は、非ハイブリッド車と比べて1周当たり41%少ないエネルギー量で同等のスピードを出さなければならない。

 そのためトヨタ自動車の参戦車両は、燃料エネルギーからより多くの出力を取り出すこと、最大熱効率が要求される。「レースエンジンも市販車のエンジンも方向は同じ。少ない燃料でいかに走るか」(小島氏)。さらに、状況に合わせた燃料カットや、減速時の回生エネルギーを加速に再利用するなど工夫を凝らす。

 参戦車両のシステムは昨シーズンから大きな仕様変更をせずに採用する。排気量2.4l(リットル)のV型6気筒ツインターボエンジンと前後輪のモーターの組み合わせだ。エンジンの出力は367kW(500PS)、パワーユニット全体の最高出力は735kW(1000PS)となる。「エンジンの体格は『プリウス』に搭載している排気量1.8lのNAエンジンとほぼ同じだ。同等の体格で、出力が5倍、熱効率は44%だ」(小島氏)。

 リチウムイオン電池のユニットはプリウスの現行モデルで出力30kW、体積が30.5lなのに対し、参戦車両は出力300kW、体積70lとなり、効率を大幅に高めている。今回は高温下でも充放電効率を維持できる電池セルを採用した。「2016年のセルは60℃で充放電効率が下がった。2017年は85℃でも効率を維持できるようにし、2018年は95℃でも性能を維持する。冷却機構の小型軽量化を図りながら、出力を増やすことが可能になった」(小島氏)。セルの組み合わせ方や状態監視、冷却については、協力会社とともに開発したという。

 今シーズンのWEC参戦決定にあたって、トヨタ自動車 社長の豊田章男氏は「レースに勝ちたい、環境性能を追求したいというだけでなく、『運転が楽しい』『もっと乗っていたい』『もっと走らせたい』とドライバーが思えるハイブリッドカーを実現したいという思いで参加している」とコメントを発表している。レースで培った技術は社内で共有し、市販モデルの開発に反映させていく。

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