「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

モビリティサービスが自動車市場に与えるインパクトはプラスかマイナスかIHS Future Mobility Insight(4)(1/3 ページ)

世界各国で普及が進むモビリティサービスだが、自動車市場にどのような影響を与えるのだろうか。中国と米国、欧州、そしてインドでどのような変化が起こるかを予想する。

» 2018年06月05日 10時00分 公開

 昨今のIoT(モノのインターネット)やクラウド、ビッグデータの活用など、これらを取り巻くデジタル的な技術革新により、自動車市場の周辺環境は、新たな産業革命を引き起こし、スマートな社会の中で、人類が抱えるさまざまな問題を解決できるような方向に進んでいる。世界的な人口増加や高齢化、都市化の進展など環境変化によってもたらされる交通渋滞やエネルギー不足、電力供給や大気汚染、温暖化ガス排出問題の懸念などが背景にあるとみられ、持続可能な社会の実現に向けて大きなハードルとなっていると言えよう。

 IoTのサービスを自動車産業分野に展開することで、車載通信により、渋滞緩和による大気汚染や経済損失の軽減、運転状況把握による安全走行、運輸部門での配送効率化など、スマート社会におけるテクノロジーの果たす役割は、ますます重要になってきているものとみられる。また、今後もこうした技術発展や経済発展、地政学的リスクを伴いながらも、自動車市場に関わる環境規制動向や産業振興策に代表される政府政策など世界におけるさまざまな地域での多面的、体系的な情勢の理解が必要になってきているように思われる。

 未来のモビリティ社会を形成する主要な推進力としては、カーシェアリングや配車サービスなど通信技術を活用したモビリティサービス産業の進展や自動運転技術、自動車の電動化が挙げられる。いわゆるサービスとしてのモビリティは、共有経済の進展により消費者によるクルマの所有から利用への動きが加速し、スマートフォンや電子機器を介した需要者側と供給者側を最適化ベースでつなぐ機能により移動コストを軽減し、利用率を向上させることになるであろう。

 また、自動運転技術は道路上の安全性を高め、それを実現するためのインフラの整備や法規制、都市設計などにも影響を及ぼすものとみられる。2030年には、新車販売用に生産される車両のほぼ半数程度が、EV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)といった電動車両となると見込まれ、パワートレインの大勢は多岐にわたりそうだ。

 とはいえ、石油産業を取り巻く地政学的変化やそれに伴う原油価格の動向は、消費者の購買/利用行動の源泉を担い、自動車メーカーにとってもニーズに合う商品構成と品ぞろえの拡充/取捨選択を通じた価値提供の最適化という意味では引き続き重要であると考えられる。実際に、地域/国により求められる車種は異なる場合があり、セダン、ハッチバックといった乗用車(CAR)系の車種がより求められる場合もあれば、多人数乗車が可能で車内スペースの広いMPV系がアジア地域では人気で、走破性のイメージの強いSUVや都市型のクロスオーバータイプSUVが近年の全体的なトレンドで、かつ地域ごとに人気の高い、競争力の高い車種が存在するなどさまざまだ(図1)。

図1 図1 主要地域における車型別販売シェア予測(クリックで拡大)

 IHSマークイットが予測する原油価格は、今後緩やかな上昇傾向ではあるものの、2030年時点では、これまでで過去最高の2012年の水準に達しない見通しとなっている。これは、新興国の経済成長による一定の燃料需要は見込まれるものの、供給側の強い圧力により、価格上昇が抑制され、全般的には低水準が続くとの見立てが基礎となっている。

 もっとも、足元の水準は協調減産などによる油価上昇が見られるなど、一進一退の状況は短期的に価格動向へと反映されるため注視は必要であろう。仮に原油価格の高騰が続けば、代替エネルギーの必要性が高まり、従来型から電動化への推進シナリオも描けるであろう(図2)。

図2 図2 原油価格動向と今後の予測(クリックで拡大)
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