人とくるまのテクノロジー展2018特集

1社では難しい「レベル4」、オープンソースの自動運転ソフトが提供するものは人とくるまのテクノロジー展2018(1/2 ページ)

「人とくるまのテクノロジー展2018」(2018年5月23〜25日、パシフィコ横浜)の主催者企画の中から、ティアフォーの取締役で、名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授でもある二宮芳樹氏の講演を紹介する。

» 2018年06月20日 06時00分 公開
[川本鉄馬MONOist]

 「人とくるまのテクノロジー展2018」(2018年5月23〜25日、パシフィコ横浜)の主催者企画の中から、ティアフォーの取締役で、名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授でもある二宮芳樹氏の講演を紹介する。

 二宮氏は自動車の知能化、車載カメラの画像処理、移動ロボットなどの分野で研究開発に従事している。講演では「完全自動運転によるモビリティサービスの実現」という演題で、自動運転技術の現状と方向性を整理した。さらに二宮氏は自らが取り組む自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」について解説した。

自動運転に関する2つのアプローチ、自家用と事業用

ティアフォーの二宮芳樹氏

 自動車の自動運転は、現在、条件付きの自動運転である“レベル3”の普及が見えてきた段階にある。二宮氏は、レベル3の自動運転車には2つのアプローチがあるとし、1つは「これまでの自動車にボタンを付けて自動運転を実現する方法。自家用車の発展形」だという。そして、もう1つの動きとして事業者向けの車両を軸にしたモビリティサービスからのアプローチがあると説明した。

 1つ目の自家用車からのアプローチである“パス1”は、既にAudi(アウディ)がレベル3の自動運転が可能な「A8」を発表している。しかし、自家用車をベースにして自動運転を実現するこのアプローチでは、ドライバーの状況監視や交代などに代表されるヒューマンファクターの問題がある。レベル2や3の精度を上げるには、こうした人間に絡んだ課題を解決する必要がある。

 もう1つのアプローチとなる“パス2”では、乗用車ではなく事業者用の車両に特化して設計される。そして、レベル4の自動運転を最初から実現することをスタート地点としているのが特徴だ。最初から事業用のモビリティサービスに特化した車両は、低速で限定されたエリアからサービスを開始する。その後、技術の進歩に応じて徐々に速度を上げ、対応範囲を広げるなどの方法で運転のレベルを高める。そして、最終的にはレベル5を実現することを目指す。

 このようにモビリティサービスの実現を目指す動きは自動車メーカーでも活発で、二宮氏はトヨタ自動車が乗用車を売るビジネスと並行して「モビリティサービスの会社になる」と表明していることを紹介した。また、Volkswagen(VW)が2017年のフランクフルトモーターショーで公開したモビリティサービス専用車「セドリック」に触れ、General Motors(GM)やFord Motor(フォード)なども同様のシナリオを持っていると語った。

複数の技術が変わってモビリティが変わる

 未来のモビリティに関しては、いろいろなキーワードが存在する。MaaS(Mobility as a Service:マース)はその代表だが、二宮氏は、Automated/Autonomous(自動化/自動運転)、Connectivity(接続性)、Electric/Emissions-free(エレクトリック/エミッションフリー)、Sharing(シェアリング)の4つを挙げる。

 二宮氏は、「これらの分野でそれぞれに技術が変化・進化することで、未来のモビリティが変わると、交通や物流は当然として、社会そのものを大きく変える可能性がある」と説明する。また、この動きは自動車そのものの意味や価値を大きく変えると語る。「若者の自動車離れ」という言葉があるが、技術の進歩によってカーシェアやライドシェアがもっと手軽に利用できるようになると、自動車を所有する人はさらに減るだろう。二宮氏は「2030年には自動車利用者の50%がモビリティサービスへ移行する」と予測する人が出始めたことを紹介した。

 効率の良いモビリティサービスが普及すると、都市の景観も変化するという。これまでは自動車のために必要だった駐車場や道路といった空間が人間のために開放される。また、自動運転が一般化すると、運転の必要がなくなったハコで目的の場所まで移動することになる。そして、この空間は仕事をする場の他、リビングとしてくつろぐ場にもなる。また、エンターテインメントを楽しむ場にもなり得る。二宮氏は、この状況を「移動の間に何をするか、大きなビジネスチャンスになる」と語る。

 Intel(インテル)が「パッセンジャーエコノミー」と呼ぶこの巨大市場は、サービス産業、特に“どんなサービスをどう提供するか”を競うサービスプラットフォーマーにとっても非常に魅力的だろう。しかし、このような未来のモビリティサービスを実現するには、先に触れた複数の技術がそれぞれに進化する必要がある。二宮氏は「これをやるにはITが必要」と語る。「ビッグデータの活用やIoTで全体をつなぐ仕組みを作り、配送の問題をどうやって解くのかを誰かが考える必要がある。クルマだけの技術ではできない」(二宮氏)。

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