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» 2018年06月29日 14時00分 公開

海外医療技術トレンド(36):エビデンスの質が問われる糖尿病領域のモバイルヘルス (1/2)

日本でも注目されている糖尿病治療向けモバイルヘルスアプリケーションだが、米国ではリアルワールドエビデンスの質をどう上げるかが課題となっている。

[笹原英司,MONOist]

 日本でも注目されている糖尿病治療向けモバイルヘルスアプリケーションだが、米国では、リアルワールドエビデンスの質をどう上げるかが課題となっている。

米国で実施された糖尿病自己管理用モバイルヘルスアプリケーション評価

 2018年5月8日、米国保健福祉省(HHS)の医療研究・品質調査機構(AHRQ)は、「糖尿病自己管理用途モバイルヘルスアプリケーション」と題する報告書を公表した(関連情報)。

 これに先立ち、AHRQは、2017年7月12日、モバイルヘルスの介入によるアウトカム評価研究の一環として、「糖尿病向けモバイルヘルス」と題する研究プロトコルを公表している(関連情報)。この研究では、急速なタイムラインで製品の開発・評価を実施し、糖尿病自己管理用途のモバイルヘルス利用に関するインフォームド・チョイス(説明を受けたうえでの選択)を行う意思決定者を支援することを目的として、以下のような質問項目を挙げている。

  • Q1:糖尿病自己管理向けに、どのようなモバイルヘルス固有の技術が研究されてきたか
  • Q2:モバイルヘルス固有の技術の特徴(例.相互運用性、機能、アクセシビリティー/ユーザビリティ、電子健康記録への接続)は何か
  • Q3:モバイルヘルス固有の技術利用に関連して、どんな患者アウトカムがあるか
  • Q4:モバイルヘルス固有の技術利用に関連して、どんな害や費用があるか

 図1は、この研究の分析フレームワークを示している。調査対象製品は、成人の1型および2型糖尿病患者向け自己管理モバイルヘルスアプリケーションで、技術による相互作用、患者に重要なアウトカム、健康アウトカムまたはその他の文献調査結果の3つのカテゴリーについて検証している。

図1 図1 糖尿病自己管理用途モバイルヘルス研究の分析フレームワーク(クリックで拡大) 出典:AHRQ「Mobile Health Technology for Diabetes」(2017年7月12日)

 調査手法としては、意思決定者やステークホルダーへのインタビューの他、Ovid/Medlineおよびコクランデータベースの検索による系統的レビュー・技術評価を実施している。

 2018年5月8日に公表された報告書では、6つの1型糖尿病向けアプリケーション(「Glucose Buddy」「Diabetes Manager」「Dbees」「Diabetes Diary」「Diabetes Interactive Diary」「Diabeo Telesage」)、5つの2型糖尿病向けアプリケーション(「BlueStar Diabetes」「mDiab」「NexJ Connected Wellness Platform-Health Coach + [NexJ]」「Gather Health」「WellTang」)について、表1のような形で要約している。

表1 表1 モバイルアプリケーションの機能、ユーザビリティ、重要なアウトカム(例)(クリックで拡大) 出典:AHRQ「Mobile Health Applications for Self-Management of Diabetes」(2018年5月8日)

エビデンスの量・質や個人データ保護に課題を抱えるモバイルヘルス

 RHRQは、調査結果のポイントとして、以下のような点を挙げている。

  • 数百の糖尿病自己管理アプリケーションが商用利用可能になっているが、医療アウトカム研究が特定できたのは、11のアプリケーションのみであった
  • 11のアプリケーションのうち、糖尿病モニタリングで重要な臨床検査であるHbA1cについて、臨床的に重要な改善に関わる研究は5つのみであり、生活の質(QoL)、血圧、体重またはボディマス指数(BMI)の改善に触れた研究はゼロであった
  • 研究手法の課題としては、短期間(2〜12カ月)である点、ランダム化、割付、マスキング、脱落分析の報告に一貫性がない点、結果の解釈を阻害する共介入がしばしば使われていた点があり、高品質の研究と考えられるケースはなかった

 糖尿病患者向け自己管理モバイルヘルスアプリケーションの数は増えているが、エビデンスについてみると、臨床評価指標の設定、分析手法の標準化などに課題があり、量、質ともに不十分であるとしている。

 また、今回の報告書では、医療アウトカム研究が特定された前述の11のアプリケーションについて、セキュリティ/プライバシーポリシーの対応状況を整理している。ポリシーの有無を確認できないアプリケーションがあった他、同じアプリケーションでも、プラットフォーム(例.iOSとAndroid)によってプライバシーポリシーの内容が異なっていたり、サードパーティーの開発者のデータ利用に関する記述がまちまちで一貫性がなかったりするなど、個人データ保護上の課題が山積している。

 本連載第28回で取り上げたように、モバイルヘルス機器・アプリケーションから生成されるデータは、リアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス(RWE)のソースとしても期待されており、エビデンスの継続的な構築/蓄積やセキュリティ/プライバシー対策の整備は欠かせない。

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