コアラはなぜ猛毒のユーカリを食べられるのか、全ゲノム配列の解読から明らかに医療技術ニュース

京都大学は、オーストラリア博物館が指揮する「コアラゲノム・コンソーシアム」に参加し、同コンソーシアムがコアラの全ゲノム配列の解読に成功したと発表した。

» 2018年07月23日 15時00分 公開
[MONOist]

 京都大学は2018年7月4日、オーストラリア博物館が指揮する「コアラゲノム・コンソーシアム」に同大学霊長類研究所 特定助教の早川卓志氏が参加し、同コンソーシアムがコアラの全ゲノム配列の解読に成功したと発表した。

 本研究では、次世代シークエンサーを用いて3個体のコアラのゲノムDNA断片を網羅的に解読。1個体についてはde novoアセンブリ手法で、本来の染色体に近い形につなぎ合わせ、コアラのゲノム配列のレファレンスを作成した。ゲノムデータは世界29の研究機関の研究者54人が共有し、解析を分担した。

 京都大学は、コアラがユーカリを食べる際に利用しているだろうと考えられる味覚受容体遺伝子の解析を担当。コアラは食べ物中の毒を苦味として舌で感じる苦味受容体という遺伝子を、他の有袋類に比べて多く持っていることが判明した。

 他チームは、嗅覚受容体や、解毒代謝に関わる酵素の遺伝子にも特徴があることを解明。これにより、コアラは食べられるユーカリを識別する味覚と嗅覚と、摂取した後も解毒できる酵素をゲノムレベルで進化させたと結論づけた。

 コアラは、母親の便を食べてユーカリを分解できる腸内細菌を受け継ぐことで、毒のあるユーカリが食べられると知られていた。今回の研究で、コアラ自身のゲノムにも、感覚と解毒の両側面でユーカリ食に適応するメカニズムがあることが判明した。

 他にも、コアラの繁殖様式や母乳成分に関わる遺伝子、感染症に対抗する免疫関連遺伝子、コアラの個体数変動の歴史や、地域個体群の遺伝的分化の度合いなど、コアラのユニークな生理や生態に関連する遺伝子が多く同定された。

 また、ゲノムにコアラレトロウイルス感染の痕跡が検出され、感染症研究の基盤となった。さらに、コアラ個体群の変遷や、地理的な分化についても、ゲノムレベルで明らかにされた。

 今後は、同定された遺伝子の機能を細胞や行動レベルで検証する実証的なコアラ研究の発展、ゲノムレベルで区別できる地域個体群を保全の単位としてコアラを保護していく活動などが期待されるという。

photo ユーカリの樹の上で生活する野生のコアラ(クリックで拡大) 出典:京都大学(写真提供:早川卓志氏)

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