自動運転農機が脚光浴びた「第34回国際農機展」、GPSトラクターは安くなるのか第34回国際農機展レポート(1/3 ページ)

「第34回国際農業機械展in帯広(第34回国際農機展)」では、4年前の前回に萌芽を見せた農業ICTがさらに大きく進展していることを印象付ける展示会となった。無人での運転と作業が可能な自動運転農機が脚光を浴びる一方で、有人ながらGPSによる自動操舵が可能なGPSトラクターの低価格化ソリューションにも注目が集まった。

» 2018年08月20日 10時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 2018年7月12〜16日の5日間、北海道帯広市の北愛国交流広場で農業機械の国際展示会「第34回国際農業機械展in帯広(第34回国際農機展)」が開催された。前回の111社を大幅に上回る134社(7カ国8社の海外企業を含む)が出展し、5日間で20万1000人が来場した。

「第34回国際農機展」の会場の様子 「第34回国際農機展」の会場の様子

 1947年から約70年の歴史を持つ国際農機展は、1982年から4年に1回の開催となっている。そして、長らく機械工業界をパートナーに進化してきた農業機械にとって、2014年開催の前回からテーマになり始めているのがICT(情報通信技術)の活用だ。

 例えば、ヤンマーがM2Mサービス「スマートアシスト」を2012年12月に、クボタが営農・サービス支援システム「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」を2013年12月に発表している。また、前回の国際農機展の開会式では、次世代技術として期待される農業機械として、GPSによる自動操舵を行うGPSトラクターが新技術としてお披露目された。

 今回の国際農機展では、4年前の農業ICTの萌芽からさらに大きく進展していることを印象付ける展示会となった。最も分かりやすい例はGPSトラクターだ。前回の開会式で1台をやっと車庫入れするレベルだったが、今回の開会式では10台以上によるパレードが行われた。

「第34回国際農機展」の開会式におけるGPSトラクターのパレード。自動操舵なので乗員は手を放しているが走行できている。とはいえ、ちょっとしたハプニングも……(クリックで再生)

自動運転トラクターに3D全周囲モニターを搭載

 GPSトラクターは、乗員が細かな操舵を行う必要はないが、周囲の安全確認などのために人が乗っている必要がある。労務は軽減されるものの、農業でも大きな課題になっている人材不足に対応するには、無人での運転と作業が可能な自動運転農機が必要だ。法規制のために有人監視下という条件付きになるため、1台をGPSトラクター、もう1台を自動運転トラクターという組み合わせでの使い方が想定されている。

 第34回国際農機展に出展した、クボタ、ヤンマー、井関農機、三菱マヒンドラ農機という国内大手農機メーカー4社は自動運転農機の展示を行った。クボタとヤンマーについては別記事で紹介しているので※1)、※2)、本稿では井関農機と三菱マヒンドラ農機の展示を紹介しよう。

 井関農機は、2018年内の発売を予定している自動運転トラクターを参考出展した。2016年ごろから開発を始めていたもので、GPSでトラクターの現在位置を検出し、ジャイロセンサーで傾きによる測位誤差を補正し、自動運転作業を行う。現在、60馬力クラスのトラクターをベースにモニター試験を行っているところだ。

井関農機が展示した自動運転トラクター 井関農機が展示した自動運転トラクター(クリックで拡大)

 展示した自動運転トラクターは車両の四方にカメラが搭載されている。この4つのカメラ映像を使って、車両の全周囲を立体的にもモニタリングできるシステムを、半導体メーカーのソシオネクストが展示していた。ソシオネクストは「OMNIVIEW」というブランド名でソリューションを展開しており、自動車向けではデンソーテンなどに採用されている。「自動車向けの全周囲モニターは2Dのものがほとんどだが、OMNIVIEWは3Dが最大の特徴。農業機械に適用する場合、この3Dで全周囲を見られることに大きな意味が出てくる」(ソシオネクストの説明員)という。農業機械向けにソフトウェアを最適化したソリューションを、2018年秋から井関農機のコンバイン向けのオプションとして売り出す予定である。

「OMNIVIEW」の立体全周囲画像「OMNIVIEW」の立体全周囲画像 自動運転トラクターに搭載したカメラによる「OMNIVIEW」の立体全周囲画像(クリックで拡大)

 三菱マヒンドラ農機は、実証実験を進めている自動運転トラクターと実験成果を展示した。同社製トラクター向けのリモコンと、GPSトラクター向けにトリンブル(Trimble)が展開しているGPSガイダンスシステムと自動操舵システムを搭載している。GPSとしては、衛星からの信号とともに基地局の信号を組み合わせて数cm単位の高精度作業が可能なRTK(Real Time Kinematic)-GPSを用いている。実験成果では、10a当たりの馬鈴薯畑での作業時間が11.5時間から8.5時間に減少し、収量が1割向上、生産コストを5000円削減できたという。ただし、商品化については「現時点で未定」(三菱マヒンドラ農機の説明員)とのことだった。

三菱マヒンドラ農機が展示した自動運転トラクター 三菱マヒンドラ農機が展示した自動運転トラクター(クリックで拡大)

 また、国内メーカーの自動運転トラクターは100馬力クラスまでがほとんどだったが、米国が本社の日本ニューホランドは300馬力クラスのコンセプト車両「NHDrive」を展示していた。

日本ニューホランドが展示した300馬力クラスの自動運転トラクター 日本ニューホランドが展示した300馬力クラスの自動運転トラクター(クリックで拡大)
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