デジタルツインを実現するCAEの真価

「CAEが楽しい」地方の声から始まったCAE懇話会、ベテランの知見を後世へCAE(2/2 ページ)

» 2018年08月31日 13時00分 公開
[加藤まどみMONOist]
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最近のCAEの傾向は?

 最近のCAEについては、「以前より使用するハードルが低くなってきた」と辰岡氏は話す。ソフトの操作が容易になり、価格も下がった。さらにオープンCAEも登場している。オープンソースの流体解析ソフトウェア「OpenFOAM」は企業にも着々と定着しつつあるという。

 操作が容易になったことから、「やる気さえあればやれることは増えた」と辰岡氏は話す。一方で、解析対象となる分野も広がっている。一部の人だけが取り組んでいた連成解析やクリープ解析といったものも、昔に比べれば取り組む人が増えている。懇話会や解析塾でも、こういった多様化する会員の要望には対応していきたいという。

 設計者CAEという言葉については、利用者の裾野を広げた一方で、解析結果を理解できず使いこなせないという問題も生じさせている。「設計者CAEという言葉はベンダーが作った言葉。売る側は売るために分かりやすい言葉を作るが、使い方に気を付けないと大変なことになる」(辰岡氏)。

 経験者であれば、出力された結果が有効なのか判断できるが、解析スキルのない人は出力されたきれいなコンター図をうのみにしてしまうことがある。あとで問題が発覚して設計のし直しが必要になることもあるため、そのような場合は経験のある人に見てもらう必要がある。

 一方、定型的な製品や部品であれば間違える可能性がない場合もある。その場合は設計者CAEのツールを使うことも有効だ。

「CAEが楽しい」と思う人が集まっている

 CAE懇話会には基本的に「CAEが楽しい」と思う人が集まっていると話す。OpenFOAMなどは典型的だ。ダウンロードすれば自分で始めることができる。極端な例だと、会社では使わないが個人的にやっているという趣味のような取り組み方をしている人もいるという。

 参加者は解析専任者が多い一方で、すそ野は広がっている。また、かつては材料力学を学んだ人や構造解析出身、理系出身などがほとんどだった。最近は文系出身の人や基礎知識を持たない人が増えている。「CAEをやる人が増えているのもあるだろう。CADにCAEが付属するようになって費用が掛からなくなり、取りあえずやってみようと始める企業も多い。だがCAEは操作するだけでは完結しない。解が正しいか評価する目を持つことが必要だ」と辰岡氏は話す。「今は一から始めてもキャッチアップは容易になっている。ただCAEを本当に使いこなすためには、企業がスキルを付けるための環境を用意する必要があるだろう」と(辰岡氏)。

 最近は参加者に派遣社員の人も多いという。「突然、明日CAEをやらないかといわれる。取りあえず結果は出るが、理由が分からない。材料力学は知らないし、数学も今は忘れたということでやって来る人もいる」(辰岡氏)。今は派遣社員の方が経験が長く、よく分かっているということも多いという。派遣社員はずっと同じところにいる一方で、社員は数年で異動してしまうということもあるからだ。

 一から基礎事項を学ぶ必要がある人に対しては、CAEソフトウェアの操作を覚えるよりも、基礎的な材料力学や最低限の数学の知識など、理論を少しでも理解するようアドバイスしている。解析塾にも入門者向けのものがある。「そういったコースで自分で手を動かして計算することが、遠回りのようでも習得の近道になる」(辰岡氏)という。

無理なく続けるためには――新しい人ウエルカム

 CAE懇話会に参加するメリットは多いが、本業が忙しく参加がなかなか難しいという人もいるだろう。辰岡氏は「最もスムーズに行くのは、会社の上司にメリットを理解してもらうこと」だという。辰岡氏も会社のプラスになると判断されたため、社の業務の一環として活動することができた。

 とはいえ会社の理解を得るのも難しい。「土曜にある解析塾などには自費で来る人も多いが、会社に業務として認知してもらうのがベスト。面倒だというのも分かるが、上司に掛け合わないのは安直かもしれない」と辰岡氏は話す。

 普段からとことん上司を説得して理解を得て、自由に活動できる環境を作ることが大事だという。なかなか時間外業務や出張費まで得るのは難しいが、本来は業務に関係することだ。また企画して講師を呼ぶなど会を回そうとするのであれば、理解を得ないとますます難しくなる。

 新しい運営メンバーも大歓迎とのことだ。幹事会でアイデアを出し合うが、長くやっているとどうしてもマンネリ化してアイデアが出にくくなるという。そのため「年齢問わず新しい人に入ってもらい、アイデアを出してほしい」(辰岡氏)とのことだ。

 今後のCAE懇話会の方向性について、辰岡氏は「ユーザーの方を向いていれば間違いないでしょう」と話す。「いろいろ情報収集をする際に、ベンダー主催のイベントだと色が付くので避けたいという人も多い。そういう意味でも存在価値はあると思う」と話す。またベテラン技術者の経験を、若手に引き継いでいきたいいう。「現場の知見を共有する場を次の世代に残していければ」ということだ。

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