ET & IoT Technology 2018 特集

製造業のドメイン知見を生かしてAIをパーソナライズ、イーソルの「eBRAD」人工知能ニュース

イーソルは、プライベートカンファレンス「eSOL Technology Forum 2018」において、人間の行動や振る舞いをパーソナライズしたAIの自動生成が可能なAI開発フレームワーク「eBRAD」を開発中であると発表した。

» 2018年10月02日 10時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 イーソルは2018年9月28日、同社のプライベートカンファレンス「eSOL Technology Forum 2018」において、人間の行動や振る舞いをパーソナライズしたAI(人工知能)の自動生成が可能なAI開発フレームワーク「eBRAD(eSOL BehavioR ADaptation engine、イーブラッド)」を開発中であると発表した。自動運転システムをはじめさまざまな産業の自動化システム開発に向けて、少数のリードパートナーと共同開発を進めて行く考え。

 eBRADを用いると、例えば自動運転システムを構成する「認知」「判断」「制御」の3つのステップのうち、各ドライバーによって異なる「判断」のモデルを、画一的/平均的なものとせず、パーソナライズした形で生成することができる。このパーソナライズされたAIにより、ドライバーの手動運転の傾向に合わせた最適な運転支援が可能になる。手動運転と自動運転の間の引き継ぎも、よりスムーズになるという。

 現在のAI開発で広く用いられているのは、ニューラルネットワークと大量のデータを使った深層学習(ディープラーニング)だ。これに対してeBRADは、人間の行動や振る舞いを表すコンピューティングモデルと、その行動や振る舞いが起こる状況や条件(例えば自動車の運転)に関わるドメイン知見を組み合わせたアプローチをとる。自動運転システムの場合、コンピューティングモデルはドライバーモデルとなる。

 eBRADでは、このアプローチを基に、時間的情報を含むBN(ベイジアンネットワーク)であるDBN(Dynamic Bayesian Networks、動的ベイジアンネットワーク)を用いてAIを構築する。例えば、あるドライバーが二車線の高速道路を走行(車線変更や追い越しを含む)する際のパーソナライズされたAIを生成するのには、20分ほどの運転データを収集するだけで済むという。

「eSOL Technology Forum 2018」で披露された「eBRAD」で生成したAIによる自動運転のデモ 「eSOL Technology Forum 2018」で披露された「eBRAD」で生成したAIによる自動運転のデモ。二車線の高速道路を走行するパーソナライズされたAIを生成するのに、20分ほどの運転データがあれば済む(クリックで拡大)

 ただし、eBRADのアプローチでは、人間の振る舞いを表すコンピューティングモデルとドメイン知見が不可欠だ。カンファレンスの講演でeBRADを発表したイーソル 取締役 CTO兼技術本部長の権藤正樹氏は「AI開発に大量のデータが必要といわれてきたが、それは米国や中国のITジャイアントであれば扱えるだろう。しかし日本が有力な製造業の優位性はドメイン知見にある。eBRADは、そのドメイン知見を活用できるAIフレームワークだ」と述べている。

 なお、コンピューティングモデルと明示的ネットワークモデルであるDBNを用いることで、ソフトウェアの品質確保において最重要であるデザインレビューの適用も可能になる。深層学習で得られたAIで指摘されるブラックボックス化の問題もクリアできるとしている。

 「eBRAD SDK」は、eBRADで生成したAIを使用するために必要な包括的なツールセットと対象システムに組み込むランタイムエンジンが含まれている。このランタイムは、長年イーソルが培ってきた高い信頼性のOS技術とマルチコア/メニーコアによる高度な並列化技術の知見を用いて開発されている。

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