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» 2018年10月03日 08時00分 公開

イノベーションのレシピ:パナソニック企画製品で初のクラウドファンディングは「空間を着る」

Shiftall(シフトール)は、パナソニック アプライアンス社のデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」と共同で、集中力を高めるウェアラブル端末「WEAR SPACE」を開発したと発表した。パナソニックが企画開発した製品として初めて、事業化プロジェクトをクラウドファンディングで実施する。

[朴尚洙,MONOist]

 Shiftall(シフトール)は2018年10月2日、東京都内で会見を開き、パナソニック アプライアンス社のデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」と共同で、集中力を高めるウェアラブル端末「WEAR SPACE(ウェアスペース)」を開発したと発表した。パナソニックが企画開発した製品として初めて、事業化プロジェクトをクラウドファンディングで実施する。CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)グループが運営する「GREEN FUNDING」を通じて、同日からクラウドファンディングを始めた。同年12月11日までの調達目標額は1500万円で、1台当たりの支援額は2万8000円(税込み)からとなる。なお、2018年10月2日22時の時点で既に54人が支援を申し込んでいる。

「WEAR SPACE」を装着した状態「WEAR SPACE」を装着した状態 「WEAR SPACE」を装着した状態。外形寸法は幅220×奥行き300×高さ140mmで、重量は330g。頭囲54〜62cmに対応する。アクティブノイズキャンセリング機能を用いた連続利用時間は約20時間、連続音楽再生時間は約12時間。集中力を高める側圧による密閉感と、1〜2時間装着し続けられることのバランスを意識して設計したという(クリックで拡大)
パナソニックの臼井重雄氏 パナソニックの臼井重雄氏

 WEAR SPACEを企画開発したFLFは、パナソニック アプライアンス社デザインセンター 所長の臼井重雄氏直下の先行開発組織で、東京を拠点として事業部に捉われない新領域の先行開発を担当している。臼井氏は「FLFは未来の豊かさを問い、具現化するデザインスタジオだ。若手中心の7人でスタートし、少数精鋭のアジャイル開発で新しい発想のもとデザインを行っている」と説明する。

 WEAR SPACEは、そのFLFが企画とデザインを担当し、設計と製造、販売は2018年4月にパナソニックグループの傘下に入ったShiftallが担う。Shiftallは、家電ベンチャーとして知られるCerevo(セレボ) 代表取締役の岩佐琢磨氏が、Cerevoの一部人員とともに2018年2月に設立したハードウェアベンチャー。同年4月に全株式をパナソニックに売却したことにより、岩佐氏がCerevo創業前に勤めていたパナソニックに11年ぶりの“出戻り”を果たしたことで話題になった※)。WEAR SPACEは、Shiftallがパナソニック製品の開発や事業化に関わることを公式発表した初の事例となる。

※)関連記事:パナソニックに“出戻り”のCerevo岩佐氏、100年企業に与える「いい刺激」とは

「身に付けるだけで集中する空間を一瞬で作り出せる」

パナソニックの姜花瑛氏 パナソニックの姜花瑛氏

 「集中力を高めるウェアラブル端末」をうたうWEAR SPACEは、ノイズキャンセリング機能を搭載したヘッドフォンや、視界を調整できるパーティションという構成要素そのものに新規性はない。FLFの所属で、WEAR SPACEプロジェクトを推進しているパナソニック アプライアンス社 デザインセンター 新領域開発課の姜花瑛氏「ヘッドフォンとパーティションを一体化することで、身に付けるだけで集中する空間を一瞬で作り出せるというコンセプトにこそ意味がある」と語る。

 WEAR SPACEの特徴として挙げられているのは、「視界を狭めることで目の前の作業に集中できるパーティション」「周囲の雑音を打ち消すアクティブノイズキャンセリング機能」「Bluetooth搭載で音楽のワイヤレス再生にも対応」「快適さを追求した新しい装着スタイル」「一目で集中していることが周囲に伝わるデザイン」の5つだ。

 実際に、人間の一般的な視野角(210度)の約6割をカットするパーティション、3段階で調節できるノイズキャンセリング機能、Bluetoothによる音楽再生、頭頂部の圧迫感がない快適な装着感という構成要素以上に、何より装着しているだけで「作業に集中している」ことを周囲に伝えられるデザインと存在感にこそ大きな意味がある。「デザインしてみて分かったことだが『WEAR SPACEを装着する』という形での新しいコミュニケーションの在り方も見えてきた。コワーキングスペースなど、働き方や職場はよりオープンになっているが、やはり集中したいときもある。WEAR SPACEがあれば、その空間を一瞬で作り出せる」(姜氏)という。

 ユーザーとしては、ソフトウェアエンジニアやWebデザイナーなどのデスクワーカー、特に生産性向上のために机やいす、マウス、トラックボールなどをいろいろと試すような人々を想定している。他にも、日本酒の味覚判定サービス「YUMMY SAKE」で日本酒のテイスティングを集中して行ったり、発達障害者が集中して作業を行えるようにしたり、さまざまな用途の広がりがあり得るという。発達障害者の団体であるTENTONTOによる評価では、入力作業の件数が13%増加するという効果を確認している。

 WEAR SPACEは、会見の会場にもなった東京ミッドタウンのコワーキングスペース「WORK STYLING」や、二子玉川の蔦屋家電2階にあるパナソニックのショールーム「RELIFE STUDIO FUTAKO」などで実物を使った使用感を体験できる。

「大企業がなくした3つのもの」をパナソニックに取り戻す

Shiftallの岩佐琢磨氏 Shiftallの岩佐琢磨氏

 Shiftallの岩佐氏は、WEAR SPACEを事例として、パナソニックの中で「大企業がなくした3つのもの」を取り戻して行くとした。その3つのものとは「エッジのきいた商品」「多品種少量生産製品の短期間での市場投入」「0→1で表されるノンシリアルなイノベーション」である。「WEAR SPACEのような、ヘッドフォンなのか何なのか分からないものをいきなり世に問うことができなかった。それができるように、パナソニックの中にスタートアップマインドを作っていきたい」(同氏)という。

 姜氏も「これまでパナソニックのデザインの仕事は絵に描いた餅になることが多かった。社内提案で終わってしまっては、そのデザインで社会を変えることはできない。それを早い段階で外に出して評価してもらうとともに、商品化にもこだわっていきたい。今回のWEAR SPACEが、パナソニックから新たな商品をバンバン生み出すきっかけになれば」と述べている。

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