連載
» 2018年10月12日 09時00分 公開

DMM.makeの中の人に聞く「IoTとスキル」(2):日本企業の多くがはまる、イノベーションのジレンマとは?

IoTを業務に活用したい人たちをサポートしている、DMM.make AKIBAのスタッフへのインタビュー。今回は、DMM.make AKIBAでエヴァンジェリストを務める岡島康憲氏に登場いただいた。

[杉本恭子, 監修/DMM.make AKIBA,MONOist]

 IoTを業務に活用したい人たちをサポートしている、DMM.make AKIBAのスタッフへのインタビュー。今回は、DMM.make AKIBAでエヴァンジェリストを務める岡島康憲氏に登場いただいた。

>>前回:自分の仕事は実験の連続、報酬は「信用×換金レート」で決まる

プロフィール

岡島康憲(おかじま やすのり)/DMM.make AKIBA エヴァンジェリスト

2006年、電気通信大学大学院修了後、NECビッグローブ株式会社(現:ビッグローブ株式会社)にて動画配信サービスの企画運営を担当。2011年にハードウェア製造販売を行う岩淵技術商事株式会社を創業。自社製品開発以外にも、企業向けにハードウェアプロトタイピングやハードウェア商品企画の支援を行う。2014年、ハードウェアスタートアップアクセラレータ「ABBALab」の立ち上げやハードウェアスタートアップ向けのシェアファクトリー「DMM.make AKIBA」の企画運営を担当。2017年、センサーデバイスにより収集した情報の可視化プラットフォームを提供するファストセンシング株式会社を創業。マーケティングを中心とした業務を担当。



障壁が低くなって広がったIoT

―― 前回は、IoTという言葉がなかった2011年頃から、ハードウェアとWebサービスを連携させることを「コネクテッドハードウェア」と表現し、事業を展開してきたという話を伺いました。なぜ、早い時期からコネクテッドハードウェアに注目したのですか。

岡島 私が大学生だった2003〜2004年頃には、少なくともいろいろなハードウェアがソフトウェアによって制御されていました。大学で学んでいたメディアアート界では、インターネット上のいろいろな情報を大きなスクリーンに出すとか、情報を音に変換して音楽として流すなど、いろいろなことが行われていました。またARやVRなど、Web上の情報をモニター以外の装置で見せることについても、アートだけでなく実用に向けた研究が始まっていた時期で、WebのサービスやWeb上のリソースをハードウェアと連携させることは、私にとってはそれほどとっぴな発想ではありませんでした。

―― かつては研究中心だったコネクテッドハードウェア的な世界ですが、ある時期から急に広がったように感じます。

岡島 そうですね。大学の研究で必要だった大量の電磁石をコントロールするマイコンであれば、当時1個50〜60万円ぐらいだったと思いますが、今なら1万円程度のもので代替えできます。いろいろな技術が発達して環境が整ってきたことで、一気に障壁が低くなり、多くのエンジニアが試せるようになった。そうするとノウハウも蓄積されて一般的になるし、それを踏まえてとんでもなく面白いものを作る人も出てくるということだと思います。

―― 障壁を低くした技術の中で、岡島さんにとって特にキーとなったのは。

岡島 ちょうど起業を具体的に考えている時期に出てきたWebのプラットフォーム「Ruby on Rails(ルビー・オン・レイルズ)」と、「Arduino(アルドゥイーノ)」というマイコンの存在ですね。Ruby on Railsを活用することで、DBを使ってログイン機能もある、ちょっとしたWebサービスを作りやすくなり、Arduinoが出てきたことでマイコンの工作がとてもやりやすくなり、インターネットにつなぐこともできるようになった。この2つはとても重要な技術でした。

「課題設定」が日本のIoTの課題

―― ハードウェアを作りたいと考えるWeb系の会社などから相談を受けるとのことですが、Web系出身の方は、ものづくりの世界のどういうところにギャップを感じるのでしょう。

岡島 例えば基板からボンッと煙が出たら、部品を交換しないと修理できませんよね。でもWebの世界にどっぷりつかかってきた人になればなるほど、CTRL+Zやプログラムの書き直しでは修正できないということが、感覚的に理解しにくいようです。ハードウェアの世界に不自由さを感じることは多いと思いますね。

 試作と量産の間の壁もそうですね。例えばArduinoで試作したものがあるから、すぐ量産して3カ月後には量販店に並べたいというような話もよくありました。全て無理ということはありませんが、大抵の場合は難しい。この辺にもギャップを感じると思います。

―― なるほど、いわゆる製造業では当たり前のことでも、育った世界が違うと理解しにくいのですね。では、昨今のIoT全般を見渡して、課題と感じていることはありますか。

岡島 何かを作りたいと思ったときに、それを実装する方法は何かしら見つけられるようになっていると思いますが、問題なのは何をやるべきかという課題設定の部分だと思います。

 「東南アジアで商売している」という人であれば、マラリアが大問題なので、マラリアの検査を数分でできるようなキットを作っているという。海外にはそういうクリティカルな課題を解決しようとしている人たちが多く、それは強烈な課題が多いからでもありますが、私には課題設定のセンスが良いと思えます。

 日本の場合の多くは、課題がハイコンテクストすぎる傾向があります。抽象度が高く、共通認識できる背景や暗黙知があってこそ共有できる課題を設定しているのです。例えば、社内の人間関係を良くする装置とか……。でも、それをマラリアで困っている国に持っていったら「そんなのんきなことを行っている場合じゃない」といわれるでしょう。これは日本の良いところでもあるのですが、ビジネスにおいてはギャップになっていると思います。

―― ならばローコンテクストな課題、つまり非常に具体的で共通認識がなくても理解できる課題を設定すればいいということでしょうか。

岡島 ローコンテクストにしようとしても、今度は使い手のニーズにあっていないローコンテクストになってしまう。これは、われわれも含めてハマっているかもしれない課題です。仮に技術的に日本の方が優れているとしても、想定するユーザーの課題を先につかんで、荒削りのソリューションを出して修正し、出して修正し、と繰り返している海外企業は、気が付くと追い付けないところまで行っている。日本の多くの企業は、いわゆるイノベーションのジレンマにはまっていると思うのです。

―― そういう課題に気がついている人たちもいると思うのですが。

岡島 気がついている人は、若手にも、中堅にも、経営層にも結構いると思います。ただ、その人たちが描いている仮説や先進的な考えを、企業内の他のメンバーに伝播(でんぱ)させる方法がまだみつかっていない。そこが一番の問題なのかもしれません。

―― 最後に、IoTを業務に活用できる人になるために、1つだけアドバイスするとしたら。

岡島 (ほぼ)全ての仕事は実験の繰り返しなので仮設設定と振り返りを大事にしたほうが良さそうです。


 次回は、DMM.make AKIBA テックスタッフの日野圭氏が登場する。(次回に続く)

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執筆・構成:杉本恭子(すぎもと きょうこ)/フリーライター



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