帯電防止からメッキ技術に発展、皮革調の立体タッチパネルの“裏側”にあるものは材料技術

スポーツシューズや樹脂素材などを手掛けるアキレスは、取引先向けのイベント「マテリアル&プロダクト展 2018」(2018年11月20〜21日)において、開発中の皮革調立体タッチパネルを紹介した。

» 2018年11月22日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
アキレスが開発中の皮革調立体タッチパネル(クリックして拡大)

 スポーツシューズや樹脂素材などを手掛けるアキレスは、取引先向けのイベント「マテリアル&プロダクト展 2018」(2018年11月20〜21日)において、開発中の皮革調立体タッチパネルを紹介した。

 導電性高分子であるポリピロールを使って電極を印刷することにより、タッチパネルを立体形状で大型化できる。また、従来の材料よりも電気抵抗が低く高感度なポリピロールの特徴を生かし、合成皮革の上からでもタッチ操作を可能にした。自動車の内装デザインを向上するニーズに対応し、デザイン自由度を高められるタッチパネルとして提案していく。

電極を印刷し、立体成形した上でメッキ加工する(左)。そのため、タッチパネルの形状の自由度が高く大型化も可能(右)(クリックして拡大)

 ポリピロールと合成皮革はいずれもアキレスの製品だ。開発品のタッチパネルの設計は電子部品メーカーのSMKが協力している。ポリピロールは同社の中で長い歴史を持つ製品だが、もともとは帯電防止用の材料だった。ポリピロールがメッキの触媒をつかむ特性があることを生かすため、2003年に同社はポリピロールのナノ分散液を開発し、塗料化に成功。2007年にはポリピロール液を用いたメッキ技術を開発した。

 同社のメッキ技術が最初に量産品に用いられたのは、2017年5月にTDKが発表したスマートフォンなど向け銅箔ラミネート型磁性シートだ。TDKはアキレスのポリピロール液を活用することにより、厚さ1μmという極薄の銅箔を実現。従来品と同等のノイズ抑制性能でありながら、60%の薄型化を達成した。

ポリピロールはITOよりも抵抗値が低いため、LEDが明るく点灯する(クリックして拡大)

 アキレスは現在、ポリピロール液を用いたメッキ技術の多用途展開に取り組んでいる。その用途の1つが皮革調立体タッチパネルに用いた電極の印刷で、この他にも自動車のエンブレム向けなどにも開発を進めている。

 皮革調立体タッチパネルは、スマートフォンなどと同じ投影型静電容量方式でタッチ操作を検出する。同方式の電極層には、主に「ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)」が用いられているが、抵抗値が高いため、大型化すると感度が低下するのが課題だった。また、ITOは立体形状にするのが難しい。

 ポリピロールは抵抗値がITOの100分の1と低く大型化が可能になる。ITOよりも高感度で、合成皮革を表面にかぶせても十分な感度が保てる。「印刷の版があれば電極を作れる」(アキレスの説明員)としており、生産性も高い。

アクリル板に合成皮革フィルムを重ねている。合成皮革フィルムの耐久性向上が今後の課題に(クリックして拡大)

 皮革調立体タッチパネルは、タッチパネル部分と、合成皮革で構成されている。合成皮革は自動車の内装材などに使用する場合、合成皮革フィルムに布地を重ねているが、開発品ではアクリル板に合成皮革フィルムを重ねた状態で使用している。タッチパネルはポリピロールに配線を印刷した後、立体形状に成形し、メッキで電極を完成させる。

 量産モデルでの採用に向けた課題となるのは、繰り返しのタッチ操作に対応できる合成皮革フィルムだという。合成皮革は表面のフィルムに布地を重ねることで耐久性を保っているため、フィルム単体の強度を向上することが今後の開発テーマになるとしている。

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