特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

スマート工場の“障壁”破る切り札か、異種通信を通す「TSN」の価値いまさら聞けない第4次産業革命(27)(1/4 ページ)

製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第27回となる今回は、スマートファクトリー化の大きな障壁を破る技術として注目される「TSN(Time Sensitive Networking)」について考えてみます。

» 2018年11月28日 13時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第27回となる今回は、スマートファクトリー化の大きな障壁を破る技術として注目される「TSN」について考えてみます。

本連載の趣旨

 本連載は、「いまさら聞けない第4次産業革命」とし、第4次産業革命で製造業が受ける影響や、捉える方向性などについて、分かりやすくご紹介したいと考えています。ただ、単純に解説するだけでは退屈ですので、架空のメーカー担当者を用意し、具体的なエピソードを通じて、ご紹介します。

※)本連載では「第4次産業革命」と「インダストリー4.0」を、意味として使い分けて表記するつもりです。ドイツ連邦政府が進めるインダストリー4.0はもともと第4次産業革命という意味があります。ただ、本稿では「第4次産業革命」は一般用語として「IoT(モノのインターネット)による製造業の革新」を意味する言葉として使います。一方で「インダストリー4.0」はドイツでの取り組みを指すものとします。


本連載の登場人物

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矢面 辰二郎(やおもて たつじろう)

自動車部品や機械用部品を製造する部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長兼IoTビジネス推進室室長。ある日社長から「君、うちも第4次産業革命をやらんといかん」と言われたことから、話が始まる。多少優柔不断。印出研究所に入り浸っている。


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印出 鳥代(いんだす とりよ)

ドイツのインダストリー4.0などを中心に第4次産業革命をさまざまな面で研究するドイツ出身の研究者。第4次産業革命についてのさまざまな疑問に答えてくれる。サバサバした性格。


*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。

前回のあらすじ

第26回:「部門思考は部分最適か、製品の多様性と製造効率を両立する標準化とは

あらすじ背景

 従業員200人規模の部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長である矢面辰二郎氏はある日、社長から「新聞で読んだけど、君、うちも第4次産業革命をやらんといかん」と言われます。しかし、「第4次産業革命」といわれても「それが何なのか」や「どう自分たちの業務に関係するのか」がさっぱり分かりませんでした。そこで矢面氏は第4次産業革命研究家の印出鳥代氏に話を聞きに伺うことにしました。本連載では印出氏とのやりとりを通じた矢面氏とグーチョキパーツの第4次産業革命に向けた取り組みと成長の軌跡を紹介します。


 さて前回のおさらいです。前回はスマートファクトリー化などで求められる「一体型モノづくり」を切り口に設計部門が考える「製品の差異化」と製造部門が考える「製造の自動化」が実はトレードオフの関係にあり、それを乗り越えるのに何が必要かということを考察してみたのでした。

 製品の差別化を考えると、機能や形状などで違いを作り出さなければなりません。しかし、他にないような仕組みや機構を作るとなると、製造技術も一般的なものでは作ることが難しく、専用の装置や治具などが必要になります。専用の装置などの開発が必要になると、それなりのコストが必要になり、その回収のためにはある一定数以上の生産量が必要になります。そうなると、少量多品種の製品には使えなくて、使える製品が限定的になる……、など行き詰まりをどう解消するのかが課題となっていました。

 その解決策として印出氏が挙げたのが、「モジュラー設計」と「バリエーション対応」でしたね。

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本質的で難しい問題ではあるけれど、今はモジュラー設計とバリエーション対応ということで進めていくのが現実的ではないかしら。


 モジュラー設計は、機能を果たす互換性の高い部品群をモジュールとして標準化しておき、それらを組み合わせて多様な製品を生み出すという仕組みです。組み合わせを想定しているために、インタフェースとなる部分や単位などの統一など「標準化」が大きなポイントとなります。

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「多様化に対応するために画一的な標準化を実現する」というのは、相反するようで興味深い考え方ですね。


 製造部門だけでも、ロボットの活用やAGV(無人搬送車)による可変ラインの実現など、多様性や柔軟性に対応する取り組みが進みつつあります。しかし、それだけでは、個人の嗜好に応える「マスカスタマイゼーション」で目指す多様性は実現できません。そういう意味で、設計から製造まで一体となって多様性に対応するモノづくりへの取り組みを進めていく必要があると紹介していましたね。


 さて、今回は新たに製造現場のデータ収集や情報活用で注目を集めている通信規格「TSN」が製造現場にもたらす意味について触れたいと思います。

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