VR/ARが描くモノづくりのミライ 特集
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» 2018年12月26日 13時00分 公開

【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」:VRを導入した現場と導入しなかった現場の差とは

まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年12月〜2019年1月のサブテーマは『中小企業におけるVR活用の現実と理想のカタチを模索する』です。

[藤崎 淳子/Material工房・テクノフレキス,MONOist]

まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年12月〜2019年1月のサブテーマは『中小企業におけるVR活用の現実と理想のカタチを模索する』です。


>>前回「製造現場が抱える課題にVRはどう役立つのだろうか」

SCENE 3:VRを導入した現場と導入しなかった現場の差とは

 「大手メーカーはお金があるから、VRみたいな時代の先端をいくような高い設備もカンタンに導入できるからいいわよね」というのは過去のお話で、最近では値ごろ感のあるVRシステムが販売されていて、中小製造業においても設計の3D化に伴って3D設計データをVRに流用して現場で生かす事例は増えつつあります。

 前回も挙げたような、1回の設計で1台しか作らない機械装置やサイズが大きくて試作が難しい部品の製作など、一発勝負で失敗が許されないような仕事での事前シミュレーションがそれです。

 自社と同等規模の他社の導入事例を見ると「なるほど。これは便利だな。うちでも何かに使えるかもな」と、真っ先にそんな感想を抱くでしょう。そこでたいした使用目的もないのに「はやりに乗っておこう」といって衝動的に導入してしまう企業もありますし、反対に、VRの支援があれば製品の作り込みの効率化や作業の安全性向上が図れるのは明らかなのに、「製造も教育も人の手と感性で行うべき」とかたくなに既存の環境にこだわる企業もあります。前者の場合はさておくとして、後者の場合はやがて機会損失に気付くことになるかもしれません。この会社をA社としましょう。

 A社と似た規模の中小企業で、前々から装置組み立て作業の標準化の方法に苦労していたB社があります。悩みのタネは、何度マニュアルを改定しても作業中に手を挟む、頭をぶつけるなどの軽微な事故が減らなかったことです。今は軽微なものでも、いつ大きな労災事故を起こすか分かりません。

 そこで最近、安全教育と組み立てのトレーニングを目的としてVRを導入しました。VRの中で工具を持ち、ナットを支えてボルトを締めると力覚デバイスを通じて実際の作業の感触を得ることができます。そしてVRの中を移動しながら組み立てを進めて、作業中のどのポイントでどんな姿勢を取れば事故を防げるかの検証も行ったところ、くしくも構造上の問題点をあぶり出すことにつながりました。エンドユーザーの手に渡る前に製品の品質を見直すことにもVRは役立つということで、導入の成果は大きなものになりました。

 A社では、装置の設計には3D CADを使い、3D CAMで加工も効率化しています。でも、3Dデータは限られた用途でしか活用していません。「3Dデータとは何か? モノを作る以外にどう役立つのか?」を再考して、その用途を広げることを考える段階に来ているようです。「製造も教育も人の手と感性によって行うべき」という方針は尊いのですが、世の中の変化に沿うように人材の資質も“時代なり”に変わってきているので、将来を見すえて、今どきの効果的な技能伝承の手段も準備しなくてはいけません。その必要性を感じた時、やっとVRの可能性に気付くのではないでしょうか。


 次回は「SCENE 4:「現場で使えるVR」にするために中小製造業が取り組むべきこと」をお届けします。

(次回へ続く)

Profile

藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)

長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。

・筆者ブログ「ガノタなモノづくりママの日常」



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